第1回 Hot(ホット)は辛い? -富永真琴教授の研究ー
2008.3 vol.2
東京大学 立花隆ゼミ 酒井 寛
”HOT”のホントの意味って・・・・?
突然ですが、英語の問題です。" It's HOT !! " これをみなさん、どう日本語に訳しますか?そんなの簡単さ、「あー、熱い!!」でしょ?そんな声が聞こえてきそうです。では、こういう訳はどうでしょう?「あー、カラい!!」え、そんなわけないじゃん、そんな声がすぐに聞こえてきそうです。しかし、欧米では " It's HOT !! " を、「あーカラい!!」という意味で実際に使うんです!!カラいと熱いは別物じゃん?と思うかもしれませんが・・・・実際のところはどうなんでしょうか?
生理学研究所(せいりけん)の富永真琴先生は、この不思議を解明する発見をしたのです!
トウガラシの辛さの研究から始まった、大発見
トウガラシの辛さの原因ってなんだか知っていますか?その原因はテレビでもよく取り上げられたので知ってる人も多いかもしれませんが、カプサイシンという物質なのです。富永先生はこの人間がトウガラシを「カラい!!」と感じる仕組みを解く研究をしていて次のような発見をしました。人間には外からやってくるいろんなものを感知するセンサーが全身に備わっているのですが、その中の一つのTRPV1とうセンサーに、まずカプサイシンはピピッと受容されます。このTRPV1というセンサーは検知すると、脳に情報を電気信号で送り、その結果人間はトウガラシを食べると「カラい」と感じるわけなのです。ここで富永先生はあることを疑問に思いました。「トウガラシを食べると確かに辛いんだけど、同時に口の中がカーっと熱く火照った感じがするような・・・カラいと熱いってなにか関係があるのかな?」さらに研究を進めた富永先生はついに「HOT問題」を解く発見をしたのです。
辛さの原因のカプサイシンを受容するTRPV1というセンサーは実は温度も感じることができるセンサーだったのです。このセンサーは43℃以上の温度を感じとると反応し、脳に情報を送ります。(人間にとって43℃以上は生命の危険が伴う温度と言われているので、温度の感覚と同時に「痛い」という感覚を起こすと考えられています。)このセンサーは辛さや43℃以上の温度を感知しても同じ電気信号を脳に送るという事から、人間は辛さも熱さも同じ仕組みで感じていたことがわかったのです。
カラいも熱いも同じ仕組みで感知する、だから人間はどっちもHOTでそれを表現するのですね!
発見された温度センサーから、開かれる新しい世界
TRPV1というセンサーは温度を感知するセンサーだという発見を皮切りに、他の多くの種類の温度センサーが発見されました。するとそれぞれのセンサーはそれぞれ感じる温度の守備範囲を分担していて、守備範囲の中の温度であれば反応するけども、守備範囲外では反応しない、ということがわかりました。これらの温度を感知するセンサーは体の中で何をしているのでしょうか?実は、まだよくわかってない部分がほとんどなのです。けれども、おもしろい予想を富永先生はしてくれました。記憶や学習に大事な働きをする脳の海馬という部分には温度を感じるセンサーの一種がたくさん存在していて、温度を敏感に検知していると考えられます。よく調べてみると、このセンサーが働いていると海馬が働きやすいと考えられる状態になっていることがわかりました。つまり、ある温度で勉強すると、かなり効率のいい勉強ができるかもしれない、というのです。「人間の体の中では多くの謎があるのですが、実は温度センサーが何かしているのでは?という視点で研究すれば解けるかも知れないものたくさんあるんです」と富永先生は話します。
温度って私たちの周りに当然のように存在してるんですが、その当たり前にスポットをあてて研究してみると、以外な事実がわかるかもしれない・・・・それも科学のおもしろさの一つですね。

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