ピックアップコンテンツ
ブレイン・ミステリー

第12回 久保義弘教授研究室の研究  ~純粋におもしろいんだよ~

2011.1 vol.19

はじめの第一歩!!

いきなりですが、「なぜなぜ問題」です。私たちの体を動かす時、どこが指示を出しているでしょう?それは脳ですね。ではそのとき脳のなかでは何が起こっていると思いますか?脳のなかでは脳を形作る細胞である神経細胞どうしが、電気信号をお互いに送り合って、コントロールしています。では、次の問題です。なぜ神経細胞では電気信号を使うことが出来るのでしょうか?答えは電気信号を受け取り、電線のように自分細胞の中に電気信号を通し、そして隣の細胞に信号を伝えるための「働き手」が神経細胞の表面に備わっているからなのです。この働き手は担う役割によって「チャネル」や「受容体」と呼ばれていて、それぞれ多くのの種類が存在しています。
 さて、これまでの話ですが、逆に考えると次のように考えることができませんか?
 「脳が活動し、体を動かすための大事な『はじめの第一歩』は神経細胞の表面にあるチャネルなどが担っている。」
 これまで神経細胞の表面に存在するチャネル・受容体の研究が多く行われ、ものすごく小さいにもかかわらず実にうまく、ダイナミックに動きながら働いていることがわかってきました。そんな神経細胞のチャネル・受容体にどっぷりと惚れ込み、とことん細かく調べてやるぞ!と意気込んで日々、研究をしているのが今回紹介する久保義弘先生の研究グループです。
 一体、どんなことをして何を調べているのでしょうか?

小さいものの動きを徹底的に調べる様々なアイデア・技術

神経細胞の表面にチャネル?受容体はたくさん存在し、その種類も豊富にあります。ですから、神経細胞そのものをつかってある1つのものだけを狙って調べようとすると、そのまわりにあるそれ以外のチャネル?受容体までまざってしまい、調べることが大変難しくなってしまうという問題点がありました。「数多く存在する、チャネルや受容体のうち、狙った1種類だけを細かく徹底的に調べるにはどうしたものか…。」そこで久保先生達は、なんとカエルの「卵母細胞」という「卵になる手前の細胞」に、調べたいチャネル?受容体の「設計図」を直接打ち込んで卵の表面にたくさん作らせて観察する、という作戦を取ったのです。カエルはアフリカツメガルとよばれる生物の実験でよく使われるもので、卵母細胞も手軽にたくさん手に入ります。この作戦をとることで、小さい神経細胞の表面にある、細胞よりもさらにまた小さく、種類も多いチャネル?受容体の1つ1つを徹底的に調べるという困難な作業を、簡単にしかも安く出来るようになったのです。
 狙いを定めたチャネル?受容体だけを大量につくれるようになると、次はそれを調べます。チャネル?受容体の動きを調べるには二つの違った視点からせまります。まずは、「電気がどのように流れたか?でチャネル?受容体の動きの速さをみる」です。カエルの卵母細胞の表面にたくさん出来たチャネル?受容体に刺激を与えると、その刺激に応じてそれらの構造が大きく変化し、その結果、電気が流れます。このときに流れる電気は「チャネル?受容体がどのように動いたか」によって電気の流れ方が変わってきます。たとえば、チャネル?受容体の動きが素早いものであれば、短時間で流れる電気が増えて行きます。一方、刺激を受けた後ゆっくり動くものであれば流れる電気の量の増え方はゆっくりしたものになります。
 もう一つが、「チャネル?受容体がどのように動いているかを追跡する」です。チャネル?受容体はいろいろなタンパク質によってつくられているのですが、その別々のタンパク質に、それぞれレーザーを当てると「色を出すパーツ」をあらかじめくっつけておきます。この「色」なのですが、離れている時は、それぞれ独自の色を出します。しかしお互いの距離が近づいてくると、その距離に応じて出す色が変化します。その色の変化を観察することで「お、こいつとこいつがかなり近づいている!」「こいつとこいつは離れちゃったな」と判断することができます。久保先生達はこの方法と細胞の膜だけを観察できる特殊な顕微鏡を使って、まずチャネルや受容体に刺激を与えて動かしたときの、「色の変化」を追跡します。そしてその「色の変化」から「構成するタンパク質同士の距離の移り変わり」を追いかけて、「どう動いているかを」推測するのです。

不思議な受容体「mGluR1」

 そんなアイデアをちりばめた方法で、神経の電気信号のやりとりを支える働き手「チャネル」「受容体」の動きについて、久保先生の研究グループの立山充博先生が発見したことを紹介しましょう。
 脳の様々な部分の神経細胞の膜に存在している受容体の一つにmGluR1という名前のものがあります。まるでロボットのような名前ですが、このmGluR1は、「グルタミン酸という物質」がくっつくと「働かなきゃ!」と動きだし、いろいろな情報を細胞の中に伝えます。これまでの研究で記憶や学習に重要な働きをしていることが知られていました。「このmGluR1が動く時、一体何がどう動くんだろう?」受容体の細かい動きが気になってしょうがない久保先生達は疑問に思いました。そこで立山先生は、mGluR1をつくるタンパク質に光を出す物質をくっつけ、動くときに出す光の色の変化をみることで動きを追うことにしました。するとグルタミン酸がくっつくとmGluR1は構成するタンパク質同士の距離が縮まること発見しました。しかし、発見はこれだけでは終わりません。グルタミン酸の他に「ガドリニウムイオン」という別の物質がさらにやってくると、mGluR1を構成するタンパク質同士の距離がもっと縮まる、という現象を見つけたのです。mGluR1はくっつく相手が1種類だけのときと、2種類同時にくっつくときで形を変えるのですが、それぞれの形のときにはどういう働きをしているのでしょうか?
 それぞれの状態でmGluR1がどういう情報を細胞の中に伝えているかを調べたところ、なんと情報がちがっていることがわかりました。つまり、働いているなかでも、その働くときの形を変えることでやってきた刺激の種類によって細胞に伝える情報を切り替える、という複雑な役割を1人で行っていたのです。
この発見はそもそも受容体の形の変化を細かく徹底的に調べる、という姿勢が無ければなされなかったものです。久保先生たちの研究姿勢が新しい面白い不思議な現象を発見するに至ったのです。

純粋に、おもしろい

 久保先生はキラキラ目で語ります「この神経活動を支える働き手が大きく動くこと自体が、本当に純粋におもしろいんです。しかも動きを直接観察するので何が起こっているか本当に分かりやすい。」自分がおもしろいと思うものに、徹底的にまっすぐに突き進んで調べ、発見を次々とおこなう久保先生達の研究グループ。次はどんな動きをみつけるのでしょうか?

kubo.jpg