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ブレイン・ミステリー

第2回 瀬籐光利先生の研究 ~長生きしたい!~

2008.5 vol3

                                                  東京大学 立花隆ゼミ 酒井 寛

な、なんだ こいつは!?

瀬籐.gif

 2007年の9月に、世界でトップクラスの研究を紹介する科学誌"CELL"の表紙に突如、漫画のヒーローのようなキャラクターが現れました。それが写真のキャラクターです。名前は「SCRAPPER」(スクラッパー 日本語で破壊者という意味)。この絵を描いたのは大人気世界的マンガ「ジョジョの奇妙な冒険」の作者である荒木飛呂彦先生、そしてSCRAPPERを発見し名付けたのが今回紹介する瀬籐光利先生です。「生命の本質は動きなんです。だから表紙は動きを表現できるマンガにしようと決めたんです」という瀬籐先生。いったいどのような研究をしているのでしょうか?

SCRAPPERってどういうスタンド?

 SCRAPPERの紹介をする前に、突然ですが記憶について話をします。みなさん、記憶について考えたことがありますか?記憶って、どこにどのような形で保存されていると思いますか?テープレコーダーのように、黒い帯に磁力で書かれているのでしょうか?正解は頭の脳の中で、シナプスと呼ばれる神経同士の連絡所で行われているのです。シナプスは神経同士がやり取りを行う場所でお互いに情報をやり取りするのではなく、一方は情報を送るばっかり、もう片方は情報を受け取るばっかりという役割分担をしています。ここでは情報を受け取るポストのようなものがあり、それで情報を受け取ります。そのポストをつくるにはたくさんの材料が必要なのですが、その中の一つにNMDAレセプターというものがあります。これは神経細胞の中の工場のようなところでつくられて、シナプスまで運ばれてきます。この時、瀬籐先生は誰がどのようにしてこの材料を運ぶのだろう?と疑問に思い、研究をしてついに正体をつかみました。運び屋の名前は「キネシン」。なんと神経細胞の中にはレールのようなものがきちんと整備されていて、そのレールに沿ってキネシンはNMDAレセプターをシナプスまで運んでいたのです。ちょっと難しい話ですが、わからなかった人は「細胞の中にレールがあって、それに乗っかって物を運ぶやつがいるんだな」と思ってもらえば十分です。scrapper.jpg

 このキネシンの発見が、SCRAPPERの発見のきっかけになりました。このキネシン、動きをよく見ていると一方通行なのです。つまり物を一つの方向に運んでばかりで持ってかえってこないのです。それでは運び込まれる先のシナプスでは物があふれかえって混乱してしまい、神経がきちんと働けなくなって死ぬということが起こってしまいます。瀬籐先生は「運ぶのは一方通行でしょ・・・ということは運び込まれた先で細胞の外にポーンと捨ててしまうか、運ばれてきたものを壊してしまうかのどちらかが起こっているに違いない!!」と考えて研究に取り組みました。そしてついにSCRAPPERを発見したのです。SCRAPPERはRIMと呼ばれる、先ほど説明したシナプスの材料に「これを壊しておくよう。お願いします」という意味をもつ目印を貼り付ける役割をしています。目印を張り付けられたRIMは細胞の中のものを壊す工場に運ばれてゆき、分解されてしまいます。このような働きをもつのでSCRAPPER(破壊者)と名付けられたのですね。聞いただけでは怖い名前ですが、脳のなかではとっても大事な働きをしているのはわかりますよね?

 

とまらない興味 次のチャレンジへ!!

 瀬籐先生の疑問は終わりません。「記憶の書き込みはわかった!!じゃあ、記憶を読みだす時人間の頭の中ではなにが起こっているのだろう・・・・いっそのこと記憶をCDみたいに読み出してしまえ」と考えたっ瀬籐先生は驚くべき方法を生み出しました。質量分析と呼ばれる方法を使って、脳の断面をCD化して読み出してしまおうと考えたのです。どういうことかというと、この質量分析と呼ばれる方法はノーベル化学賞を受賞した田中耕一先生が開発した方法で、タンパク質の重さを測定する方法です。この方法を使えば、脳の断面図のどの部分にどのようなタンパク質が、どのように存在しているのかという分布がわかるのです。この方法はどのようなことに役立つのでしょうか?皆さんはアルツハイマー病という病気をご存じですか?脳がどんどんしぼんでいってしまって、記憶がどんどんなくなってゆき、そして最後は死んでしまう恐ろしい病気です。この病気が起きる仕組みが今まではっきりわかっていませんでした。しかし、この方法を使うと、脳をCD化して取り出すことができるので脳のどの部分に、そのような物質の変化が起こっているのかをはっきりとみることができます。つまりアルツハイマー病の人の脳のなかで、どこにどのような物質がたまっているのか、またどのような物質がなくなってしまっているのかをはっきりとみることができるということなのです。

 

実はね、長生きしたいんですよ

 脳のなかで起こっている出来事に対して、アッと驚く方法で取り組んでどんどん明らかにしていく瀬籐先生ですが、その人柄はとても明るい人です。「なんでこんな研究しているかというと、僕が長生きしたいからなんです」そういって笑うお茶目な先生です。お茶目だけど、やってることはスゴイ!科学者って魅力的だと思いませんか?