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ブレイン・ミステリー

第3回 研究は道楽 —柿木隆介教授の研究— (3)

2008.7 vol.4

東京大学 立花隆ゼミ 酒井寛

生理学研究所になんと、絶対に当たるウソ発見機があるって知っていますか?そのウソ発見機をずっと研究しておられるのは柿木隆介教授。よくテレビにも出演されていて、他にも人間の脳の働きについてスゴい発見をどんどんしている先生だというので、さぞかし「いかにも教授」といった感じの先生なんだろうと、とても緊張してお話を伺いにいきました。どっこい、実際に会ってみればとても気さくで話しやすく面白い先生でした。


酒井 : 「先生はなぜ研究をしているのですか?」
柿木教授 : 「だって目の前にほんとに楽しい事があるんだもの!」
酒井 : 「(そりゃあ、そうだわな…)」

そんな柿木先生の研究を少しだけ今回のブレイン・ミステリーで紹介していきましょう!

行動の管制塔、「脳」

その前にみなさんにひとつ問題です。わたしたち人間がなにか行動をする時、たとえばしゃべる、話を聞く、リンゴを見てリンゴだとわかる、といった行動はどこで管理されているのでしょうか?口?耳?目?すぐにそういう答えが浮かぶと思います。しかし、実際はもっと踏み込んだところ、ずばり「脳」で全部の行動は管理されているのです。リンゴを見たときにリンゴだと判断するのは目に入った「リンゴ」の情報が脳にまで送られて、脳が「リンゴだ」と認識するからなのです。聞くという行動も同じです。少し難しい話ですが、言われてみれば確かにそうだ!!と感じますよね?このように人間に入ってくる情報のすべては脳に集められて、処理されるのです。

かなり重要な働きをしている脳なのですが、そんな脳について柿木先生は次のような発見・発明をしました。

的中率100%!?のウソ発見機

皆さんはこれまでにウソをついたことは、もちろんありますよね?ウソがすぐにばれてしまう人、ウソをついてもばれない人いろんな人がいるでしょう。そのウソを見破るウソ発見機というのはこれまで様々なものがつくられてきましたがどれもイマイチ信用できないものばかりでした。しかし柿木先生は恐るべき,絶対ウソを見破るウソ発見機を発明したのです。それはどのような仕組みなのでしょうか?

人間の脳には「脳波」とよばれるものが生きている限り常に発生しています。みなさんはα波、β波という言葉を聞いた事があるかもしれません。脳波には様々な種類があるのですが、そのなかに「P300」という名前の脳波があります。柿木先生が研究されているウソ発見器はこれを利用したものです。このP300という脳波をもっと詳しく説明すると、一度見たことがある、もしくは知っていることを目の前にホイっと出されるとウソをつこうとしても無意識のうちに脳から出てしまう脳波なのです。言ってみれば「正直者の脳波」といったところです。柿木先生はこれに注目し見事にウソを絶対に見破れる機械を完成したのです!!その見破る確率、なんと100%!!ウソをよくつく、僕にとってはものすごい強敵です(汗)

「食べようかな…やめよっかな…」その時、脳では?

柿木教授の研究室では他にもおもしろい発見をしています。「食べたいけど、今はダイエット中だから…ガマンガマン!」と言った状況で人間が我慢する時、脳のどの部分が働いているのか?を世界で初めて発見したのです。先ほどの研究では脳のなかの電気の流れを調べたのですが今回は脳のなかを流れる血液の動きに注目しました。しかしなぜ血液に注目するのでしょうか?血液には皆さんもご存知のように生き物に必要な酸素や栄養分を運ぶ働きがあります。脳のなかで一番働いている部分は酸素や栄養が必要になるので、より多くの血液が流れるようになります。この血液の流れが増えたのを見つける事ができれば「脳のこの部分が働いている」と結論づけることができますよね?実験では、人に何かの動作、例えばボタンを押すといった行動、を素早くするように心の準備をさせておいて、サインが出るとボタンを押してもらうのですが、時々「押すな、我慢しろ」というサインが出ます。その時、人は必死になって我慢、つまり心の動きを抑制しなければなりません。すると、我慢した時だけに「前頭前野」とよばれる脳の前の方の部分の一部で血液の流れの増加が発見されました。ついに人間に我慢をさせる脳のなかの場所が発見されたのです。(編注:「行くか、行かないか」の瞬時な脳の反応は、世界に先駆けて、せいりけん元所長の佐々木和夫名誉教授が発見されたものです。)

今まで見てきたような働く脳をさぐるには脳波をはかったり、血液の流れをみたりという方法の他にもいろいろな方法があります。それをどのように使い分けるか、そこはアイデア勝負なんですと柿木先生は語ります。

「研究は私にとって道楽なんですよ。」

こんなにスゴい発見を次々にする柿木先生、その秘訣はなんなのでしょうか?「研究はアイデア勝負。そのアイデアを考えるのは好きだし、なにより研究するという事が私は大好きなのですよ。」柿木先生は語ります。まるで若い人のように純粋に研究が好きだと語る柿木先生、そしてその研究室から次はどんな私たち人間のふだんの行動についての「へ〜!そうだったのか!」発見が出るのか…楽しみですね!