ピックアップコンテンツ
ブレイン・ミステリー

第6回 脳の動きを見る —定籐先生の研究— (7)

2009.5 vol.9

東京大学 立花隆ゼミ 酒井寛

去年の今頃、ある面白い発見がなされました。それは「誰かにほめられた時に活動する脳の部位と、お金をもらったときに活動する脳の部位がほぼ同じ」という発見です。一体何が面白いのでしょうか?「人間の脳にとっては、誰かに褒められるのと、お金をもらうのは同じことなのか!なんてイヤらしいんだ…!」ってこと?いやいや、違いますよ!それは勘違いです!なにが面白いかはあとでお話しましょう。

みなさんが怒ったり悲しんだりした時を思い出してください。そして、なぜそんな気持ちになったのか、を「自分の脳みそのなかでどんなことがおこっているのか?」と考えながら、とことん探ってみてください。なんだか分からなくなってきませんか?それだけ人間の感情というのは難しく、不思議なものなのです。今回紹介する定藤先生の研究室では、ある画期的な道具で、人間が喜んだり悲しんだり、物体を認識したり、物事を記憶したり…といった、「よ〜〜く考えてみると複雑で不思議で、よくわからない活動」を人間がするとき、「脳のなかでどのようなことが起こっているのか」にせまる研究をしています。

PETって?MRIって?

bm9_1.jpg

先ほど紹介した研究で、ひとつ気になるところありませんか?喜びを感じたときに脳が活性化する部位、と言ってたけども、それをどうやって特定したのか?疑問ですよねえ…。脳のどの部位が活動しているのかを調べるためには、人間の脳のなかをパカッとあけずに「脳のどの部分が働いているのか」を調べられることが必要です。それはある2つの方法によって実現されました。ポジトロン断層画像(PET)というものと機能的磁気共鳴画像(機能的MRI/fMRI)というものです。この2つはこれまで、外からは見えなかった「脳が活動する様子」を画像にして観察できるようにした画期的な方法です。いってしまえば脳の活動を観察するための「武器」です。これらの“武器”とともにこれまで数多くの研究者が脳の謎に挑んで行き、喜びを感じる部分は「線条体」、恐怖を感じる部分は「扁桃体」、というように、これまでははっきりと観察することの出来なかった人間の感情などの高度な活動を支える脳の働きを次々に観察できるようにしていったのです。

さて、この「脳の活動をのぞくマシーン」をつかって、どのように実際の研究では使われているのでしょうか?例を見てみましょう。

定藤先生の研究グループの発見
~褒められることは、脳にとって、人間にとってのよろこび!!~

bm9_2.jpg

はじめの方で少し紹介した研究についてなのですが、もっと詳しくお話ししましょう。みなさんは両親や先生、友達などに「褒められる」と「うれしく」なりますよね?一方で、ゲームに勝ったり、くじで賞品をもらったりしても「うれしい」と感じます。じゃあ、この「うれしい」って一体何なんだ?そこから研究が始まります。まず、何人かの人にお金をもらえるゲームをしてもらいます。賞金をもらえたらその人は「うれしい!」と感じますよね?この「賞金をもらえてうれしい!」と感じる脳の動きを、先ほどの脳のなかを観察する機械であるfMRIで観察します。そして同じ人に次に「あなたはとってもいい人だと評判ですよ!」といった、「他人から褒められる」という刺激を与えます。褒められたらうれしくなっちゃいますよね?その「褒められてうれしい♪」と思う脳の動きをfMRIで観察します。すると、脳のなかで「喜び」を感じるときに大きく関わってくる「線条体」と呼ばれる部分が両方の場合で活性化していることがわかりました。つまり、「お金をもらっても、褒められても、脳が喜ぶときに活発になる部分が反応した。このことは褒められるということが人間にとって喜びだ」ということなのです。

 

脳の動きを見ることのおもしろさ

脳のなかの活動をのぞく、という方法の登場で、人間の感情や行動と言った複雑な行動がどのようにして脳のなかでコントロールされているのかをばっちり観察できるようになりました。この脳のなかでなにがおきているかを観察することは私たちの生活にどんな役に立つのでしょうか?先ほどの「褒められることは脳の、人間の喜びだ」という発見では、教育の方法に役立つかもしれません。また、ある病気に脳の異常が関わっているかもしれないならば、一体どの部分がどのように異常を起こしているのかもはっきり確認することができます。いろいろ役立つ点があるのですが、私が考えるこの研究の「一番おもしろくてゾクゾクする」ところは、「なぜなぜ?」だらけの人間の活動をコントロールしている脳の動きを目で見ることができることだ、と思います。

「好きな子にふられちゃったときの胸のぽっかりした感じ」は脳にとっては「物をなくしたときのショック」と同じだってことがわかって、「ふられたショックから立ち直るには、なくしたものをもう一度手に入れればショックが和らぐのと同じように、新しい恋を手に入れればいいのです」なんてことが脳の動きを観察することで分かっちゃう未来が来るかも!?