ご挨拶

2010年3月   伊佐 正 

すっかりこのページの更新が遅くなってしまった。もう3月である。2月の末の1週間は、脳科学研究戦略推進プログラムに関連して、英国Newcastleで第2回のUK-Japanシンポジウム(昨年の第一回は東京)に参加するための英国ツアーになった。London, Cambridge, Newcastleを川人先生、阪大脳外科の吉峰先生、慶應リハの里宇先生ら総勢12名で一緒に回ることになった。Londonではロンドン大学のRoger Lemon、CambridgeではDaniel Wolpert、NewcastleではStuart BakerとAndy Jacksonと、motor controlの研究で近しい人たちの他、BMI, neuroengineering分野の多くの研究者と交流できたのは楽しいことだったし、日本のメンバーとも一週間一緒に旅をして、その間色々なことを話せたのは大変楽しくかつ有益だった。お世話になった英国大使館、学術振興会、在英日本大使館の皆さんにこの場をお借りして感謝したい。
実はこの文章も、帰りの飛行機の中で書いている。飛行機の中だとメールは使えないし、電話もかかってこないし、研究室の人たちから研究その他の相談をもちかけられることもないので、このようなちょっとした文章を書くのにはもってこいなのだが、そうでもないとなかなか書けない。私はかくも筆不精である。同業の研究者の中には何人かの「ブログの達人」がおられる。私はとてもそうはなれないなあ、と思いつつも時間のうまい使い方についてはそういった人たちに見習うべき点は多かろうと思う。
一方、こういった短い文章を書くということと論文を書くのはまた大きく違うものである。論文については最低数時間の集中した時間が必要である。研究室における私の一番大事な仕事は皆がやり遂げた研究成果を論文として完成させて出す部分である。やはり私としては日常生活ではそちらの方を優先せざるを得ない。こちらについては,最近以前にもまして論文を出すのが大変になっていると感じる。多くの同業者からも同様なことを聞くのだが、その理由の大きなものに、評価という点からhigh impact journalへの発表を要求されていることがある。ここでいう評価には、私自身が受けている研究費に相応の成果を出さなくては、ということと、専門としている研究分野での国際的な評価という意味もあるが、実際に研究を行ってきたfirst authorになる若手の研究者の今後のpromotionのための評価という点も大きい。だから、彼ないしは彼女が「このjournalに出したい」と言ってくる場合に、なかなか「無理だから駄目」だとは言いにくく、結果として、「ひょっとしたら通るかもしれない」impact factorの高いjournalから順に出してrejectを何回か繰り返して、最終的に落ち着き先が決まる、という風になることが多い。この間にかかる時間と労力が馬鹿にならない。私が研究を始めたばかりの頃であれば、Journal of Physiology, Journal of Neurophysiology, Experimental Brain Researchといった関連する分野のtop journalに論文を出すことが目標であり、これらのjournalは同業者は皆読んでいて、そこにコンスタントに出せていればその分野の研究者としての一定の評価を受けるのに十分だった。いつの間に今みたいになってしまったのだろう。多分これは私の研究室だけでなく、世の中一般の趨勢のようだ。欧米も同様である。すると世の中で著者と各種のjournalのeditorial officeの間で行き来する論文の数も以前の数倍になっている様子が容易に想像できる。それはまた、reviewをする我々研究者の労力をも何倍かに増やしていることにもなっているのだろう。こういった現状は何とかならないものだろうか?
最後に、私の経験では、「上手く行けば通るかも」で通るようなことはまずない、と言ってよい。やはり、そのjournalに有り余る質と量のデータをもって余裕で通るような投稿の仕方をするようでなくては・・・。

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 伊佐 正 教授 
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