ご挨拶

2010年6月   伊佐 正 

あなたの先生は誰ですか?
Neuro-treeというサイトがあるように研究者の世界では誰が誰の先生か、ということはかなり重要なfactorと考えられている。それは、多かれ少なかれ、一緒に研究をしている者同士は影響を与え合うので、誰が先生かがわかるとその人がどのような研究者であるかを知るための有用な情報になるからだ。
私が“先生”と思っている人は実はかなり沢山いる。
最初に私をこの分野に導いてくれたのは学生時代に通っていた東京都老人研の故佐藤昭夫先生で、生理学実験の楽しさを教えていただいた。また、外国人との緊密な交流を実践されていた方で、外国の研究者との付き合い方・考え方についても強く影響を受けた。
その次は大学院に入ってからで、東大脳研の島津浩先生とは先生が退官される前の1年間、公的な雑用から少し免除されてよく実験室に入っておられた時のお付き合いだったが、研究に関する真摯な姿勢についてとても強いインパクトを受けた。実際に指導を受けた助教授の佐々木成人先生には文字通り箸の上げ下げのようなことから研究に関する深い議論まで、本当にお世話になった。島津先生の後を受けて教授になられた本郷利憲先生とは直接一緒に研究をしたわけではないが、研究の進め方、ものの考え方についても本当にいろいろご指導いただいた。その頃の東大の脳研には隣の部門にも高橋国太郎先生をはじめ、優れた先輩・同輩が沢山いて、そのような中で楽しく揉まれた大学院時代だった。その後、大学院の4年目からスウェーデンに留学し、ルンドバーグ先生のもと、アルステルマークさんと一緒に仕事をした。ルンドバーグ先生の偉大さは既に昨年のこのページで触れたが、二人とも私にとっての恩人、先生である。その後東大にしばらく戻り、群馬大学に移ったが、そちらでは小澤瀞司先生にシナプスとチャンネルに関するホジキン・ハックスレー以来の伝統的な電気生理の考え方を一から習った。その後、生理研に教授で移ってからは、研究の直接の指導者ということではなくなったが、所長の浜清先生、佐々木和夫先生、さらに森茂美先生には先輩教授として、また同じ岡崎の隣の研究所の所長だった勝木元也先生や他の多くの先生方にも、時には苦言を賜ることも含めて、研究グループを主宰する者として生きていくための多くのことを教わった。また、最近では脳プロが始まって、中西重忠先生とお近づきになることができ、我々システム神経科学とは異なる、分子生物学者の考え方・仕事の進め方について身近にお伺いできる機会を持てたのはとても新鮮だった。このように、自分にとって新しい、重要なことを教えてくださる人は、先方がどう思っているかはともかく、私にとっては“先生”である。年を重ねても、次々に大切なことを教えてくださる先生が現れてくださるのはとても有難い。私はこのような先生方をそれぞれ尊敬し、それらの先生方の優れたところを取り込もうとしているが、一方で、私自身は誰とも違う、私のような人間、研究者は私しかいないと思っている。私自身は、常に自分の研究に対しては真面目な一方で、他人に対しては優しくありたいという自分の変わらない部分は大切にしながらも、変われるところは常に一箇所に留まることなく、新しいものを常に吸収し、変わっていく存在でありたいと願っている。それはしんどいことだし、若い人には私の安定したイメージを持ちにくいかもしれず、ちょっと離れた人には「一体あの人は何がしたいの?」と誤解を受けるかもしれない。しかしそれは承知の上で、今後も「変われる自分」でありたいと思う。来月50歳になるのだが、最近、よくこのようなことを考えるようになったはそのせいだろうか。



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 伊佐 正 教授 
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