ご挨拶

2010年8月   伊佐 正 

8月になった。この間あったことについて・・・
しばらく前に今年の国際生物オリンピックに参加した日本の高校生が4人ともメダルを獲得した、というニュースを聞いた。今年は5月の連休に彼らに講義をする機会があり、「神経科学ってとても面白い」と皆感激してくれたのは嬉しかったし、陰ながら応援していたので、全員メダル獲得は嬉しいニュースだった。「生物学」をオリンピックにして競う、というのに私も当初違和感がないわけではなかったが、興味がわいたのは、昨年の秋に母校(灘)の土曜講義で出前授業をしたときからである。とても良い質問をしてくれた生徒が2人ほどいて、後で先生に聞いたら、一人は国際生物オリンピックで銀メダル、もう一人は代表の最終候補(補欠)だったと聞いた。実際、今回協力してみてわかったのは、候補の生徒たちは分厚い「キャンベル生物学」を読破し、さらに各地で我々のような研究者たちが徹底的に教えまくる、ということである。このような詰め込みをするわけなのだが、考えてみれば、実は現代の日本の「英才教育」ではあまり詰め込みをしていない。むしろ日本の大学では比較的早い段階で専門を決めて、狭い範囲で研究者の促成栽培に徹するケースが多い。それは講義、ゼミ、レポートで追い込まれるアメリカの大学院教育とは大違いである。私が興味があるのは、このような詰め込み+エリート教育が果たして将来の研究者育成にどのような効果があるか、ということである。彼らの10年、20年先が楽しみだ。一方で、いろんな先生から授業を受けることを屈託なく楽しんでいる様子の彼らを見ていると、別に生物学の研究者にならなくても、将来どこかの分野で伸び伸びと活躍してくれれば、それで私は十分に嬉しい気分になるだろうな、とも思っている。

助教の金田勝幸君が8月1日付で北海道大学薬学系研究科の准教授に昇任・転出した。金田君は結局約5年私の部門にいてくれたことになる。その間、筆頭著者でJournal of Neuroscienceに2編。2nd authorで1編。あと、現在執筆中の論文が4−5編、ととてもproductiveだった。このように生理研の私の部門では、全国のいろんなところからいろんなバックグランドの若い人達が集まってくれて、数年間、私と一緒にじっくり研究に没頭して、ステップアップしていく場所としたいと思ってやってきた。よくできる人たちが数年でどんどん移っていってしまうのは正直言って研究の継続性からすれば私にとっては苦しいことではあるけれど、これまでの14年余りの間に在籍してくれた助教(助手)が7人。既に外部の研究所の部長が1人。5人が国立大学の准教授になって転出してくれているのは、私の部門はキャリアパスとしてこの間円滑に機能してきたことを示していてとても嬉しい。これから来年にかけて後任の人を探していくつかの人事選考を行う予定ですので、私の部門に興味のある方はぜひとも応募してください。お願いします。

7月の中旬に脳科学研究戦略推進プログラム課題Cの中間評価がありました。プロジェクトの採択が決まったのが2008年7月で、中間評価の報告の提出が今年の6月だから、1年10カ月程度で中間評価ということになります。これは脳科学の中だけの問題でなく、他の研究領域との闘いなのだから・・・とさんざん言われてきたので、大変なプレッシャーを受けてきた。入念にグループでの作戦会議、予行演習を経て、20分のプレゼンの時間でマーモセットからマカクのベクターまで57枚のパワーポイントでプロジェクトの全貌をしゃべりまくった。最初の2年で基本的なツールができてきたと思っている。最近の進展は自分たちが「異次元空間」に入りつつあるほどの勢いと実感している。残りの期間で本当に脳機能の理解の発展につなげられる成果を挙げていきたい。

以前に私の部門に在籍して、現在大阪大学の准教授の小林康君が私の部門にいた頃から始めた研究で、昨年Journal of Neuroscienceに発表した論文が神経回路学会の優秀論文賞を受賞しました。小林君の論文は何度かhigh impact journalで良いところまでいきながらなかなか通してもらえず、産みの苦しみを味わっただけに、評価されて喜びもひとしおです。おめでとう!



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 伊佐 正 教授 
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