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"報酬"の量を予測し"やる気"につなげる脳の仕組みを発見

プレスリリース 2012年11月22日

内容

私たちの行動や運動における“やる気”は、予測されうる報酬の量により、強く影響を受けます。しかし、これまでの研究では、脳のどの部位が報酬の量を予測して、行動・運動に結びつけるのか、よく分かっていませんでした。自然科学研究機構生理学研究所の橘 吉寿(タチバナ・ヨシヒサ)助教は、米国NIH(国立衛生研究所)の彦坂 興秀(ヒコサカ・オキヒデ)博士と共同で、サルを用いた研究によって、大脳基底核の一部である腹側淡蒼球と呼ばれる部位が、この過程に強く関わることを明らかにしました。米国神経科学誌NEURON(11月21日号電子版)に掲載されます。

研究グループは、情動と運動を結びつける神経回路を持つとされる脳の大脳基底核の一部である腹側淡蒼球に注目。サルに、特定の合図のあと、モニター画面上である方向に目を動かすように覚えさせ、うまくできたらジュースをもらえるようにトレーニングし、そのときの腹側淡蒼球の神経活動を記録しました。腹側淡蒼球における神経細胞の多くが、合図をうけてからジュースをもらえるまで、持続的に活動し続けることを見つけました。予測される報酬(ジュースの量)が大きければ大きいほど、目を動かすスピード(運動)は速く、腹側淡蒼球の神経活動も大きくなりました。この神経細胞こそ、得られる“報酬”を予測して、“やる気”をコントロールする脳の仕組みの一部であると考えられます。

橘助教は「腹側淡蒼球を薬物で一時的に働かなくすると、行動の機敏さが(“やる気”の差を生み出す)報酬量の違いによって影響を受けなくなりました。これらの結果から、腹側淡蒼球が、“報酬”を予測し、“やる気”を制御する脳部位の一つであることが分かりました。これによって、報酬に基づく学習プロセスの理解が進むことが期待されます」と話しています。

今回の発見

1.報酬(ジュース)を得るために目を動かすトレーニングを施したサルでは、情動と運動を結びつける神経回路を持つとされる脳の大脳基底核・腹側淡蒼球において、予測される報酬量に応じて、神経細胞の活動が変わることがわかりました。
2.予測される報酬(ジュースの量)が大きければ大きいほど、行動(目の動き)は速く、腹側淡蒼球の神経活動も大きくなりました。
3.腹側淡蒼球を薬物で一時的に働かなくすると、行動の機敏さは(“やる気”の差を生み出す)報酬量の違いによって影響を受けなくなりました。

図1 大脳基底核・腹側淡蒼球から神経細胞の活動を記録

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研究グループは、情動と運動を結びつける神経回路を持つ大脳基底核・腹側淡蒼球に注目し、その神経細胞から記録を取りました。

図2 大脳基底核・腹側淡蒼球で、報酬の量を予測して活動しつづける神経細胞を発見

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大脳基底核・腹側淡蒼球の神経細胞の多くは、報酬の量を予測して、実際に運動をおこすまで活動し続けることがわかりました。また、予測される報酬の量が大きいほど、神経細胞の活動は高まりました。

 

図3 予測される“報酬”の量が大きいほど、運動(目の動き)も速くなる

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予測される報酬の量が多ければ多いほど、実際に報酬を得るための運動(この場合は目の動き)が速くなることがわかりました。また、大脳基底核・腹側淡蒼球の働きを薬物によって一時的に抑えると、予測される報酬量の違いによる運動の機敏さの違いが見られなくなりました。

この研究の社会的意義

“報酬”の予測と“やる気”をつなげる脳の仕組み
今回の研究から、大脳基底核・腹側淡蒼球は、報酬の量を予測して“やる気”につなげる神経回路の一部であることがわかりました。教育やリハビリテーションの場において、“やる気”が学習意欲やその習熟度を高めるといわれていますが、本研究により、その脳内神経基盤の理解が進むものと期待されます。

論文情報

The primate ventral pallidum encodes expected reward value and regulates motor action.
Yoshihisa Tachibana and Okihide Hikosaka
米国神経科学誌NEURON (11月21日号電子版)

お問い合わせ先

<研究に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 生体システム研究部門
橘 吉寿(タチバナ ヨシヒサ) 助教

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 広報

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