生理学研究所は、基礎医学分野の大学共同利用機関として「ヒトのからだの働きやその仕組みの理解」を目指して、国内外の研究者と共同で研究を推進する機関です。研究を通じて、健康を維持する仕組みやその破綻による病態の理解、治療に向けた基盤情報の発信を目指します。現在は、生物界のなかでヒトにおいて最も発達している脳を中心に研究を推進しています。脳は記憶・学習や感覚・運動など個体における役割に加え、感情や言葉による他者との関係など社会性行動にも重要な役割を担っています。これまでの研究で少しずつ解明されつつありますが、その全容の解明にはまだ多くの謎が残っています。また、脳は諸臓器と相互協力的にからだの働きを調節する役割を果しています。からだの健康を保つために必要な仕組みを総合的に理解するために、からだの防御に関わっている免疫システムと脳との相互連関に加え、心・循環調節や上皮バリア機能などの仕組みについての研究も推進しています。これらを理解するために、分子・細胞から臓器・個体までの幅広いレベルにおいて世界をリードする研究を国内外の研究者とともに行うために、最先端の機器や高度な実験技術、人工知能や計算論的な研究戦略を取り入れて、からだの機能の総合的な理解を進める取り組みを推進します。さらには、材料科学・分子科学領域をリードする分子科学研究所とともに、医学・生命科学を超えた革新的融合領域「スピン生命科学」の構築を開始しました。
生理学研究所には3つのミッションがあります。
第1のミッションは、分子から細胞、臓器から個体レベルでの最先端の研究を行うとともに、各階層をつなぎ、生体機能の統合的な理解とメカニズムの解明を行うことです。生命科学の研究はますます多様化してきています。生理学研究所は、国際的に高いレベルでの研究を推進するとともに、生命科学の新たな分野の開拓を推進していきます。
第2のミッションは、大学共同利用機関として、日本の研究の向上を目指して共同研究のハブとなることです。そのために、海外の研究者との交流を促進するとともに、大学では配備することが困難な最先端の実験機器の設置や高度な実験技術の開発・導入を行います。例えば、最先端の電子顕微鏡・光学顕微鏡や7テスラ超高磁場磁気共鳴画像装置などのイメージング機器の整備や、遺伝子導入用ウイルスベクターや遺伝子改変マウス・ラットの作成・供給を行っています。2023年度に最先端の高傾斜磁場3テスラTMRIを国内で最初に導入しました。しかし、大学共同利用機関に配備する設備への予算が非常に厳しいのが現状です。今後、新たな機器の導入や更新に向けて努力していきます。一方で、電気生理学的手法などの不易たる基盤実験技術の維持・提供を行っています。さらに、国内外の研究者の連携や研究支援事業のハブ的役割を果たすことも重要な使命です。現在、日米科学技術協力事業「脳科学」分野や「先端バイオイメージング支援プラットフォーム」の中核機関として、また新規AMED事業「脳神経科学統合プログラム」の運営の一部にも参加します。
2023年度に新型コロナ感染拡大による活動制限が撤廃され、生理学研究所に研究者を受け入れて実施する共同利用・共同研究や研究会のオンライン開催など共同研究は新しいあり方とともに、順調に回復してきました。今後はリモート化・スマート化を推進して、共同利用・共同研究の効率的な実施体制を整備していきます。
第3のミッションは、若手研究者を育成することです。生理学研究所は、国立大学法人・総合研究大学院大学の基盤機関として生理科学コースを担当し、医学博士課程コースを含む5年一貫制の大学院教育を実施します。国内外の大学の大学院生を特別共同利用研究員として受け入れて教育を行うとともに、生理科学実験技術トレーニングコースやNIPSインターンシップ、さらには企業研究者向けの社会連携トレーイングコースなどを通じて、国内外の大学や企業の若手研究者の育成にも貢献します。また、クロスアポイントメント制度等を利用して大学との連携を強化します。
生理学研究所は、国際的にも開かれた共同研究を推進する最先端研究機関としての役割をこれからも果たすべく努力していきますので、今後とも御指導・御鞭撻の程、よろしく御願いいたします。
生理学研究所 所長 鍋倉 淳一
NABEKURA, Junichi
九州大学医学部卒,医学博士,東北大学医学部助手,秋田大学医学部助教授,九州大学医学研究院助教授を経て,2003年11月から生理学研究所 生体恒常性発達研究部門 教授。
2019年4月1日から生理学研究所所長。
専攻:神経生理学,発達生理学