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学童期における「顔認知」の発達過程を詳細に解明

プレスリリース 2015年5月 1日

内容

<これまでの経緯>

  顔認知は、言語認知と並んで、社会生活をするうえで最も重要な機能と考えられています。しかし、顔認知の発達過程に関する詳細な研究は、カナダのトロント大学が西洋人学童を対象として行った報告があるだけでした。
今回、自然科学研究機構 生理学研究所の柿木隆介教授、三木研作助教は、日本人学童における顔認知発達過程を詳細に解明しました。アジア人を対象とした研究は世界で初めてであり、西洋人学童の発達過程との相違を明らかにしました。本研究結果は、オンラインジャーナルのFrontiers in Human Neuroscience誌に掲載されます。文部科学省 革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)の補助を受けて行われました。

 研究グループは、8歳~13歳の計82人の被験者を対象として、顔を見た時の脳活動を、脳波計にて計測しました。顔を見た際には、他の物体とは異なり、顔認知に特異的なN170という脳波成分が出現します。このN170を指標に、顔認知に対する脳活動の発達による変化を検討しました。
 被験者には、正立した顔、倒立した顔、目だけの画像を見てもらい、それに対するN170を計測しました。8~10歳では、顔(正立ならびに倒立した顔)に比べ、目に対するN170が有意に大きくなっていました。つまり、10歳までは目に対して特別な認知があると考えられます。
 13歳になると、8~12歳よりも、正立した顔を見た時のN170の反応時間が、他の条件に比べ早くなりました。成人では、正立顔に対して特別に鋭敏になる特徴があり、顔の認知処理過程がほぼ13歳程度で成熟すると考えられました。西洋人を対象とした先行研究では、ほぼ14才程度で成熟すると考えられることから、本研究結果との差は、人種間の相違によるものと考えられました。
 三木研作助教は「今回の研究で、日本人学童の顔認知発達過程が初めてわかりました。自閉症スペクトラム障害児では、顔認知(表情の理解など)が困難であると考えられています。健常児童の結果との比較により、自閉症児の顔認知異常の病態の解明や、援助に対しての応用が期待できます。」と話しています。
 coi_logo.jpg文部科学省 革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)の補助を受けて行われました。

今回の発見

1.10歳までは、「目」に対して特別な認知が行われていると考えられる。
2.13歳になると、成人と同様の脳活動を示した。成人と同様に、正立した顔に対して特異的な認知がされている可能性がある。
3.人種によって顔認知の発達過程が異なる可能性がある。

図1  今回の実験で被験者に見せた画像

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図2 8~13歳までの被験者より得られた正立した顔に対する脳波波形

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正立した顔に対する脳波成分(N170)は、8~11歳においては、幅広い形で、少なくとも2つのピークを持つ波形であったが、12、13歳においては、1つのピークを持つ明瞭な波形であった。

 図3 8~13歳までの被験者より得られた脳波波形

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8~10歳では、目のみに対する脳波成分(N170)が他の条件に比べて大きい。
その後13歳になると、正立した顔に対する脳活動のピークが、他の条件に比べて早くなる。

この研究の社会的意義

表情の読み取りが行いにくい自閉症スペクトラム障害などの方の病態の解明や援助に対しての応用が期待できる。

論文情報

Differential age-related changes in N170 responses to upright faces, inverted faces, and eyes in Japanese children Kensaku Miki, Yukiko Honda, Yasuyuki Takeshima, Shoko Watanabe and Ryusuke Kakigi
Frontiers in Human Neuroscience  2015年 4月22日

お問い合わせ先

<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 統合生理部門
助教 三木 研作 (ミキ ケンサク)


<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室



                               

リリース元

生理学研究所・研究力強化戦略室

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