磁気共鳴装置については「生体内部の非破壊三次元観察」と「生体活動に伴う形態及びエネルギー状態の連続観察(含む脳賦活検 査)」というそれぞれ2つの研究テーマを設定し募集している。現在の装置は2000(平成12)年に導入されたもので,3テスラという高い静磁場により通 常の装置(1.5テスラ)に比較して2倍の感度をもち,特に脳血流計測による脳賦活実験においては圧倒的に有利である。また,特別な仕様を施してサルを用 いた脳賦活実験をも遂行できるようにした点が,他施設にない特色である。さらに,実験計画,画像データ収集ならびに画像統計処理にいたる一連の手法を体系 的に整備してあり,単に画像撮影装置を共同利用するにとどまらない,質の高い研究を共同で遂行できる環境を整えて,研究者コミュニティのニーズに応えよう としている。さらに,平成22年度には2台を連動させ,コミュニケーション時の脳活動を計測が可能なdual systemを導入し,社会脳の研究への大きな貢献とともに新たな研究分野の開拓が期待されている。
生理学研究所は1991(平成3)年に37チャンネルの大型脳磁場計測装置(脳磁計)が日本で初めて導入されて以後,日本における 脳磁図研究のパイオニアとして,質量共に日本を代表する研究施設として世界的な業績をあげてきた。同時に,大学共同利用機関として,脳磁計が導入されてい ない多くの大学の研究者が生理学研究所の脳磁計を用いて共同利用研究を行い,多くの成果をあげてきた。現在,脳磁計を共同利用機器として供用している施設 は,日本では生理学研究所のみである。2002(平成14)年度には基礎脳科学研究用に特化した全頭型脳磁計を新たに導入し,臨床検査を主業務として使用 されている他大学の脳磁計では行い得ない高レベルの基礎研究を行っている。脳磁計を用いた共同利用研究としては「判断,記憶,学習などの高次脳機能発現機 序」「感覚機能及び随意運動機能の脳磁場発現機序」という2つの研究テーマを設定し募集している。また今後は,他の非侵襲的検査手法である,機能的磁気共 鳴画像(fMRI),経頭蓋磁気刺激 (TMS),近赤外線スペクトロスコピー (NIRS) との併用をいかに行っていくが重要な問題になると思われる。
区分 | 研究課題名 | 代表者氏名 | 使用機器 |
---|---|---|---|
1 | マルチモダールな質感知覚の脳内情報処理機序の解明 |
藤崎 和香 産業技術総合研究所・ヒューマンライフテクノロジー研究部門 |
MRI |
2 | 脳磁図を用いた発話時の聴覚フィードバック機構とヒト脳機能の研究 |
軍司 敦子 国立精神・神経医療研究センター・精神保健研究所 |
MEG |
3 | 乳幼児および成人を対象とした様々な顔認知における脳活動の計測 |
山口 真美 中央大学・文学部 |
MRI,MEG,EEG |
4 | Williams症候群およびその他の発達障害を持つ患者の認知機能研究て |
中村 みほ 愛知県心身障害者コロニー・発達障害研究所 |
MEG,EEG |
5 | 皮質下から皮質に至る神経線維活動による磁場検出 |
寶珠山 稔 名古屋大・医 |
MEG |
6 | 脳磁場計測による視覚的短期記憶・物体認知メカニズムの解明 |
松吉 大輔 大阪大・大学院人間科学研究科 |
MEG |
7 | 視覚を中心とした物体認識に関わる脳磁場信号の計測 |
野口 泰基 神戸大・大学院人文学研究科 |
MEG,EEG |
8 | フレーミングが統計情報理解へ与える影響とその神経基盤の解明 |
岡本 雅子 帯広畜産大・動物・食品衛生研究センター |
MRI |
9 | 視・聴・触覚間の時間的同期判断を可能にする脳内情報処理機序の解明 |
藤崎 和歌 産業技術総合研究所・ヒューマンライフテクノロジー研究部門 |
MRI |
10 | Dual fMRI装置を用いた会話コミュニケーション時の脳活動解明 |
湯浅 将英 東京電機大学・情報環境学部 |
MRI |
11 | 表情と音声による視聴覚情動知覚の文化差を生み出す神経基盤 |
田中 章浩 早稲田大・高等研究所 |
MRI |
12 | 共同把持力一致課題における2人組の同時脳活動計測:コミュニケーション形成の神経的基盤を探る |
渡邊 克巳 東京大・先端科学技術研究センター |
MRI |
13 | fMRIを用いた愛着障害の神経基盤の評価システム |
友田 明美 福井大・大学院医学系研究科 |
MRI |
14 | 語用論の神経基盤の解明に向けて |
松井 智子 東京学芸大・国際教育センター |
MRI |
15 | ベルベットハンド錯触の神経基盤の解明 |
宮岡 徹 静岡理工科大・総合情報学部 |
MRI |
16 | 顔色処理の脳内メカニズムの解明 |
南 哲人 豊橋技術科学大・エレクトロニクス先端融合研究所 |
MRI |
17 | 随意性の低い効果器の訓練による随意性向上と神経基盤の変化 |
荒牧 勇 中京大・スポーツ科学部 |
MRI |
18 | スポーツと脳構造 |
荒牧 勇 中京大・スポーツ科学部 |
MRI |
19 | 磁気共鳴画像装置による脳賦活検査を用いたヒトの情動と社会性に関する研究 |
飯高 哲也 名古屋大・大学院医学系研究科 |
MRI |
20 | 運動を行うヒトの意志に関わる脳活動部位の明確化 |
船瀬 新王 名古屋工業大・大学院工学研究科 |
MEG,EEG |
21 | プライミング効果によるL2習熟度別の神経基盤と賦活状態の解明 |
大石 晴美 岐阜聖徳学園大・教育学部 |
MRI |
22 | ヒトの表情による脳活動とその制御機序―Subliminal画像を用いた研究 |
中村 浩幸 岐阜大学・大学院医学系研究科 |
MRI |
23 | 他者との相互作用に基づく同調・非同調の神経機序―社会脳からのアプローチ |
苧阪 直行 京都大・大学院文学研究科 |
MRI |
24 | 時間割引能力の発達とその脳機構の解明 |
田中 沙織 大阪大・社会経済研究所 |
MRI |
25 | 外国語運用能力の熟達化に伴う文理解及び文産出の自動化プロセスの神経基盤 |
横川 博一 神戸大学・国際コミュニケーションセンター |
MRI |
26 | 非侵襲的脳機能検査による疲労・疲労感と学習意欲の評価法 |
渡辺 恭良 理化学研究所・神戸研究所分子イメージング科学研究センター |
MRI |
27 | 視覚と触覚の速度知覚の脳内処理システムの同定 |
呉 景龍 岡山大・大学院自然科学研究科 |
MRI |
28 | 脳波と脳磁図による聴覚の変化探知メカニズムの解明 |
元村 英史 三重大・医学部附属病院 |
MEG,EEG |