生理学研究所の大型生体機能イメージング機器は磁気共鳴装置と脳磁場計測装置があり、2011年度まではそれぞれ独立して共同利用実験申請を受け付けて審 査していた。しかし、両方の機器を使用する利用者が多いこと、また審査を共通にする方が効率的であることから、2012年度からは両共同利用実験を統合し て生体機能イメージング共同利用実験とすることが決定された。 磁気共鳴装置については「生体内部の非破壊三次元観察」と「生体活動に伴う形態及びエネルギー状態の連続観察(含む脳賦活検査)」というそれぞれ2つの研 究テーマを設定し募集している。現在の装置は2000(平成12)年に導入されたもので,3テスラという高い静磁場により通常の装置(1.5テスラ)に比 較して2倍の感度をもち,特に脳血流計測による脳賦活実験においては圧倒的に有利である。また,特別な仕様を施してサルを用いた脳賦活実験をも遂行できる ようにした点が,他施設にない特色である。さらに,実験計画,画像データ収集ならびに画像統計処理にいたる一連の手法を体系的に整備してあり,単に画像撮 影装置を共同利用するにとどまらない,質の高い研究を共同で遂行できる環境を整えて,研究者コミュニティのニーズに応えようとしている。さらに,2010 年度には2台を連動させ,コミュニケーション時の脳活動を計測が可能なdual systemを導入し,社会脳の研究への大きな貢献とともに新たな研究分野の開拓が期待されている。
生理学研究所は1991(平成3)年に37チャンネルの大型脳磁場計測装置(脳磁計)が日本で初めて導入されて以後,日本における脳磁図研究のパイオニア として,質量共に日本を代表する研究施設として世界的な業績をあげてきた。同時に,大学共同利用機関として,脳磁計が導入されていない多くの大学の研究者 が生理学研究所の脳磁計を用いて共同利用研究を行い,多くの成果をあげてきた。現在,脳磁計を共同利用機器として供用している施設は,日本では生理学研究 所のみである。2002(平成14)年度には基礎脳科学研究用に特化した全頭型脳磁計を新たに導入し,臨床検査を主業務として使用されている他大学の脳磁 計では行い得ない高レベルの基礎研究を行っている。脳磁計を用いた共同利用研究としては「判断,記憶,学習などの高次脳機能発現機序」「感覚機能及び随意 運動機能の脳磁場発現機序」という2つの研究テーマを設定し募集している。また今後は,他の非侵襲的検査手法である,機能的磁気共鳴画像(fMRI),経 頭蓋磁気刺激 (TMS),近赤外線スペクトロスコピー (NIRS) との併用をいかに行っていくが重要な問題になると思われる。
区分 | 研究課題名 | 代表者氏名 | 使用機器 |
---|---|---|---|
1 | マルチモダールな質感知覚の脳内情報処理機序の解明 |
藤崎 和香 産業技術総合研究所・ヒューマンライフテクノロジー研究部門 |
MRI |
2 | 脳磁場計測による多感覚環境下での注意機構の解明 |
木田 哲夫 早稲田大・高等研究所 |
MEG,EEG |
3 | 脳磁場計測による視覚的短期記憶・物体認知メカニズムの解明 |
松吉 大輔 東京大・先端科学技術研究センター |
MEG,EEG |
4 | 脳磁図と脳波を用いた音声コミュニケーションのヒト脳機能研究 |
軍司 敦子 国立精神・神経医療研究センター・精神保健研究所 |
MEG |
5 | 非侵襲的脳機能計測法を用いた多種モダリティー刺激による誘発脳反応と皮質間連絡線維伝導の計測 |
寶珠山 稔 名古屋大院・医 |
MEG |
6 | Williams症候群およびその他の発達障害を持つ患者の認知機能研究 |
中村 みほ 愛知県心身障害者コロニー・発達障害研究所 |
MEG,EEG |
7 | 視覚を中心とした物体認識に関わる脳磁場信号の計測 |
野口 泰基 神戸大院・人文 |
MEG |
8 | 視・聴・触覚間の時間的同期判断を可能にする脳内情報処理機序の解明 |
藤崎 和香 産業技術総合研究所・ヒューマンライフテクノロジー |
MRI |
9 | 機能的MRIとの同時計測による経頭蓋直流電気刺激法の大脳ネットワークへの影響の検討 |
田中 悟志 名古屋工業大・若手研究イノベータ養成センター |
MRI |
10 | 共同把持力一致課題における2人組の同時脳活動計測:コミュニケーション形成の神経的基盤を探る |
渡邊 克巳 東京大・先端科学技術研究センター |
MRI |
11 | 表情と音声による視聴覚情動知覚の文化差を生み出す神経基盤 |
田中 章浩 東京女子大・現代教養学部 |
MRI |
12 | クロスモーダルな感覚情報の脳内表現様式の解明 |
宮脇 陽一 電気通信大・先端領域教育研究センター |
MRI |
13 | 語用論の神経基盤の解明に向けて |
松井 智子 東京学芸大・国際教育センター |
MRI |
14 | ベルベットハンド錯触の神経基盤の解明 |
宮岡 徹 静岡理工科大・総合情報 |
MRI |
15 | 顔色処理の脳内メカニズムの解明 |
南 哲人 豊橋技術科学大・エレクトロニクス先端融合研究所 |
MRI |
16 | 随意性の低い効果器の訓練による随意性向上と神経基盤の変化 |
荒牧 勇 中京大・スポーツ |
MRI |
17 | スポーツと脳構造 |
荒牧 勇 中京大・スポーツ |
MRI |
18 | 感情と社会性の脳内機能にかんする国際的研究コンソーシアムの形成 |
飯高 哲也 名古屋大院・医 |
MRI |
19 | 異種感覚情報の時間差検出に関わる脳活動の検討:脳活動によるユーザ体感品質の評価に向けて |
岩田 彰 名古屋工業大・おもひ領域 |
MRI |
20 | Dual fMRI装置を用いた会話コミュニケーション時の脳活動解明 |
湯浅 将英 東京電機大・情報環境 |
MRI |
21 | 噛み締め圧の強さと相関する脳活動の解明 |
中村 浩幸 岐阜大院・医 |
MRI |
22 | 時間割引能力の発達とその脳機構の解明 |
田中 沙織 大阪大・社会経済研究所 |
MRI |
23 | 疲労と意欲低下に関わる自律神経機能変調の神経メカニズム研究 |
渡辺 恭良 理化学研究所・神戸研究所分子イメージング科学研究センター |
MRI |
24 | 脳波と脳磁図による聴覚の変化探知メカニズムの解明 |
元村 英史 三重大・医 |
MRI |