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胎児期中枢神経系に、ニューロン・アストログリア・オリゴデンドログリアの3種の細胞群を生み出す神経幹細胞は存在するか?

研究報告 2006年10月30日

概要

胎児期の未分化な神経系細胞を培養することにより、培養条件下ではニューロン、アストログリア、オリゴデンドログリアの3種の分化した細胞種を生 み出すことのできる神経幹細胞が存在することがわかっている。では、正常発生が進んでいる胎児期の脳内でも未分化な神経系細胞は、これら3種の細胞種を生み出すのだろうか? こんな単純な問いへの答えすら、実はまだ正確にはわかっていない。 我々は、神経発生の研究が最も進んでいる胎児期脊髄の、中でも一番よく解析が進んでいる領域である、腹側のpMNドメインで細胞系譜解析を行う事にした。それまでの研究により、pMNドメインから運動ニューロンと大部分のオリゴデンドロサイト産み出されることが知られおり、上記の性質をもつ神経 幹細胞を検出できる可能性の高い領域と考えたからである。pMNドメイン(図1参照)に発現しているOlig2遺伝子座にタモキシフェン誘導性CreER をノックインしたOlig2-CreERノックインマウスと、レポーターマウスを交配させた。そして、様々な時期にタモキシフェンを投与して、胎仔期脳内の Olig2発現細胞でマーカー遺伝子発現を誘導した(図2)。胎生早期(胎生10日前後)のOlig2陽性細胞からは、運動ニューロンとグリア細胞が産み 出されるが、胎生後期(胎生12.5日以降)のOlig2陽性細胞からは、グリア細胞のみが産み出される事がわかった。pMNドメインのOlig2陽性細 胞から生み出される細胞種を、免疫二重染色法を用いた蛍光顕微鏡観察、X-gal染色を用いた電子顕微鏡観察にて同定すると、運動ニューロンとオリゴデン ドロサイト以外に、アストロサイトと上衣細胞も生み出されることがわかった。他のグループの結果ではpMNドメインからはアストロサイトは生み出されない ことが示唆されていたが、本研究の詳細な解析から、アストロサイトや上衣細胞も生み出す事が判明したわけである。つまり、pMNドメインにはニューロン・ アストログリア・オリゴデンドログリアの3種の細胞群を生み出す神経幹細胞が存在する可能性が残っていると考えられる。

論文情報

Masahira N, Takebayashi H, Ono K, Watanabe K, Ding L, Furusho M, Ogawa Y, Nabeshima Y, Alvarez-Buylla A, Shimizu K, Ikenaka K. Olig2-positive progenitors in the embryonic spinal cord give rise not only to motoneurons and oligodendrocytes, but also to a subset of astrocytes and ependymal cells. Developmental Biology (2006) 293(2):358-369.

【図1】 

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胎生10日のマウス脊髄断面(写真上が背側、下が腹側) in situ hybridization法により、Olig2発現領域(pMNドメイン)を紫色に染めた。赤は、Nuclear Fast Redによる対比染色。

【図2】 

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Creリコンビナーゼは、loxP呼ばれるDNA配列で特異的に組み換えを起こす酵素である。CreERは、Creリコンビナーゼと、変異型エス トロゲンレセプターの融合遺伝子で、リガンドのタモキシフェン存在下で、誘導的に組み換えを起こす。今回は、CreER遺伝子をOlig2遺伝子座にノッ クインしたOlig2-CreERマウスを用いて実験を行った。このマウスでは、Olig2陽性細胞でCreERを発現するので、タモキシフェン投与によ り時期特異的にOlig2陽性細胞にて、組み換えを誘導する事ができる。
Olig2-CreERマウスを用いた細胞系譜追跡実験により、胎生早期pMNドメインのOlig2陽性細胞より、運動ニューロン・オリゴデンドロサイト・アストロサイト・上衣細胞が産み出されることがわかった。

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