近年の脊髄神経発生研究により、形態学的に異なったタイプの介在神経細胞の分化は、いくつかの転写因子の発現により規定されることが示唆されている。しかしながら、これらの介在神経細胞が、最終的に神経回路網の中でどのような働きを持つ神経細胞へそれぞれ分化していくかは、まだよく分かっていない。ゼブラフィッシュは、その脊髄神経回路が単純であるため、この問題を追求するためのよいモデル生物である。本研究においては、転写因子alx(哺乳類におけるChx10)に関して、その陽性細胞がどのような神経細胞へ分化していくかを解析した。まず、alxを発現する神経細胞で、蛍光タンパク質を発現するトランスジェニックゼブラフィッシュを作製して、その神経細胞を生きたまま可視化した。これにより、alx陽性細胞の発生過程(軸索の伸長、樹状突起の成長、神経細胞の移動等)をダイレクトに追跡することができ、また、蛍光を発するalx陽性神経細胞をねらって電気生理学的な解析を行うことが可能になった。解析の結果、alx陽性細胞はすべて同側下行性神経細胞であり、またグルタミン酸作動性の興奮性神経細胞であることが明らかになった。alx陽性細胞は、その活動パターンからおおまかに2種類に分けられ、逃避行動等の強い動きで発火するものと、通常の遊泳行動でフェージックに発火するものとが存在した。ついで、運動ニューロンとの2細胞同時記録を行い、どちらのタイプも運動ニューロンに直接シナプス結合していることが示した。すなわち、alx陽性細胞は、逃避行動、遊泳行動において、運動ニューロンの活動を制御する神経細胞であることが強く示唆された。哺乳類においても、Chx10陽性細胞は同側性の興奮性のニューロンで、運動ニューロンに直接シナプス結合して運動を制御する役割を果たしている可能性が高いと考えられる。
Kimura Y, Okamura Y & Higashijima S (2006) alx, a zebrafish homolog of Chx10, marks ipsilateral descending excitatory interneurons that participate in the regulation of spinal locomotor circuits. J Neurosci, 26:5684-97.