アセチルコリンは覚醒・認知機能に深く関与する重要な伝達物質であるにも関わらず、多様なサブタイプからなる大脳皮質ニューロンへの作用については、研究グループ間によって大きく異なる考え方が出されてきました。今回、皮質ニューロンタイプへのアセチルコリンの一過性応答を再検討しました。どの皮質領域にいても、ムスカリン受容体を介した過分極は錐体細胞では5層のものに限られ2・3層では見られず、GABA作働性細胞ではCCK陽性の大型バスケット細胞でみられました。しかし、過分極に関わるムスカリン受容体は5層錐体細胞ではm1型であったのに対して、CCKバスケット細胞ではm2型であり、その誘発機構は異なっていました。ニコチン受容体を介した脱分極は、GABA作動性のVIP細胞やニューログリア様細胞でみられました。GABA作働性のFS細胞、ソマトスタチン細胞では、他のグループによる報告とは異なり、一過性応答は殆ど観察できませんでした。これらと私たちの以前の持続的投与結果と合わせると、アセチルコリンは皮質下構造に投射する5層錐体細胞を一過性に直接抑制する一方、抑制性ニューロンではニコチン受容体による脱分極・ムスカリン受容体による過分極・ムスカリン受容体による緩徐な持続的脱分極がサブタイプごとに異なる組み合わせで発現し、これらを介して抑制性回路活動を調節していることが明らかになりました。
Gulledge AT, Park SB, Kawaguchi Y, Stuart GJ (2007) Heterogeneity of phasic cholinergic signalling in neocortical neurons. J. Neurophysiol. 97, 2215-2229.
複数の皮質領域での一過性アセチルコリン応答の比較。どの領野でも深層の錐体細胞だけにSKチャネルによる過分極応答が見られた。
アセチルコリンの大脳皮質ニューロンサブタイプに対する一過性作用。
[上] 大脳皮質ニューロンタイプと、アセチルコリンによる興奮性効果(上向き赤矢印)と抑制性効果(下向き青矢印)。
[下] アセチルコリン短時間投与に対する典型的な応答。