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利尿を抑えるホルモン"バソプレシン"の脳の中の新たな作用を発見
―神経細胞の破裂を防ぎ、その大きさの維持に重要な役割、 脳浮腫などの治療法開発に期待―

2011年1月21日 プレスリリース

内容

利尿を抑えるホルモンである抗利尿ホルモン“バソプレシン”は、脳から放出され腎臓に働いて、利尿を抑えることが知られています。今回、自然科学研究機構・生理学研究所の岡田泰伸所長と総合研究大学院大学の佐藤かお理大学院生らの研究チームは、このバソプレシンが、脳の中でも腎臓と同じ仕組みで作用し、バソプレシン神経細胞自身の大きさの維持に働いていることを明らかにしました。脳梗塞・脳外傷や低ナトリウム血症などに伴い脳が膨らんでしまう脳浮腫の病態の解明とその治療法開発に役立つことが期待される成果です。米国科学誌サイエンスの姉妹誌であるサイエンス・シグナリング誌(1月25日号)に掲載されます。

研究チームは、バソプレシンを放出する脳の視床下部にあるバソプレシン神経細胞に注目。バソプレシンは本来、バソプレシン神経細胞から血液中に放出され腎臓に作用し抗利尿作用を生みだしています。通常、こうした血液中へのバソプレシンの分泌は、脳の中のバソプレシン神経細胞の周囲の水分が多くなって体液が薄まると(利尿をすすめるために)減ってしまうのですが、今回研究チームは、それとは逆に、体液が薄まることによって脳の中へはバソプレシンの分泌が増えることを突き止めました。神経細胞の大きさは、体液が薄くなるとどんどん膨らんでいってしまい、最後には破裂して死んでしまいます。このときバソプレシンがあると、バソプレシン神経細胞では、細胞が破裂しないように、神経細胞の大きさを維持するよう働くことがわかりました。また、この作用には、これまで腎臓にしかないと思われていた種類のバソプレシン・センサータンパク質(受容体)による仕組みがかかわっていることも明らかにしました。

今回の成果は、これまで単独で研究することが難しかった脳視床下部のバソプレシン神経細胞を、オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)で光らせることに成功したことから可能となった研究成果です(本研究の共同研究者である産業医大の上田陽一教授が開発)。

岡田所長は「脳の中にも腎臓と同じ仕組みがあり、それによってバソプレシンが働いていたのは驚くべき発見だ。脳梗塞・脳外傷や低ナトリウム血症などに伴い脳の細胞が膨らんでしまう脳浮腫の病態解明と治療法開発に役立つと期待される」と話しています。

本研究は文部科学省科学研究費補助金の補助を受けて行われました。

※本研究は、生理学研究所の計画共同研究として産業医大と共同で行われた共同研究の成果です。

今回の発見

1)脳(視床下部)のバソプレシン神経細胞は、脳の中の体液が薄くなるとバソプレシンを脳の中に放出することを発見。
2)バソプレシン神経細胞には、腎臓と同じタイプのバソプレシンを感じる仕組み(腎臓型(即ちV2型)バソプレシン・センサータンパク質(受容体))がありました。
3)バソプレシンがこのセンサータンパク質に作用すると、脳の中の体液が薄くなって神経が膨らもうとしても、その大きさをすばやく完全に維持するように働いて、神経細胞の破裂を防ぐことが分かりました。

図1 

細胞の周囲の液が薄くなるとバソプレシン神経細胞から周囲の脳へバソプレシンが分泌される

 岡田図1.jpg

 脳の視床下部にあるバソプレシン神経細胞は、その周囲の体液が薄くなると(低浸透圧刺激)それにともなって、バソプレシンを通常よりも1.5倍以上多く、周囲の脳の中に分泌していることを発見しました。体液が薄くなるとバソプレシン神経細胞から血液へのバソプレシンの分泌が減ることが知られていたので、周囲の脳への分泌も減るものと考えられていました。今回、その定説を覆す発見をしたことになります。
 

図2

バソプレシン神経細胞に、腎臓と同じタイプのセンサー受容体が存在

 岡田図2.jpg

 バソプレシン神経細胞には、バソプレシンそのもの(緑色)のほか、腎臓にあるものと同じタイプのバソプレシンを受け取るセンサータンパク質(V2型受容体)(赤色)があることがわかりました。これまでV2型受容体は腎臓にしかないと考えられてきましたが、今回、この定説を覆して、脳の中にもあることを発見しました。

図3

バソプレシンの作用で膨れた神経細胞の大きさはすばやく完全に元にもどる

 岡田図3.jpg

  バソプレシン神経細胞に注目したところ、バソプレシンが分泌されると、低浸透圧刺激で細胞が膨らんでも元の大きさにすばやく完全に戻ることがわかりました。これまでバソプレシン神経は細胞の大きさを調節する能力がないと考えられてきましたが、今回はその定説も覆したことになります。

 

この研究の社会的意義

1)脳浮腫の病態解明と治療法開発に期待
 脳の神経細胞が膨らんでしまう脳浮腫という病態があります。この脳浮腫は、脳梗塞・脳出血・脳外傷の際や、(マラソンランナーや統合失調症患者に時折みられる)病的な過飲水や(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群SIADH患者にみられる)バソプレシン分泌の過多の際におこる低ナトリウム血症の時に発生します。もともとの病気そのものだけでなく、脳浮腫が発生することによってさらに多くの脳の神経が障害を受けてしまうことが知られています。今回の研究成果は、脳の中にも、神経細胞の大きさを一定に保とうという仕組みがあり、それにバソプレシンが関与していることを示した世界で初めての発見です。脳浮腫の病態解明、そして、その予防と治療に役立つ研究成果と期待されます。

図4

今回の発見の概念図

 岡田図4.jpg

 

論文情報

V2 Receptor-Mediated Autocrine Role of Somatodendritic Release of AVP in Rat Vasopressin Neurons under Hypoosmotic Conditions
Kaori Sato, Tomohiro Numata, Takeshi Saito, Yoichi Ueta, Yasunobu Okada
Science Signaling (2011年1月25日号掲載)
 

お問い合わせ先

<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所
所長  岡田泰伸 (おかだ やすのぶ)
総合研究大学院大学   
大学院生 佐藤 かお理 (さとう かおり)

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 広報
 

追記:

Science Signaling誌の表紙に選ばれました。
http://stke.sciencemag.org/content/vol4/issue157/cover.dtl

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