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"元気・やる気"がリハビリテーションによる運動機能回復と関連することを脳科学的に証明

2011年9月29日 プレスリリース

内容

 脊髄損傷や脳梗塞の患者のリハビリテーションでは、モチベーションを高く持つと回復効果が高いことが、これまで経験的に臨床の現場で知られていました。しかし、実際に脳科学的に、モチベーションと運動機能回復がどのように結び付いているのかは解明されていませんでした。今回、自然科学研究機構・生理学研究所の西村幸男准教授・伊佐正教授 と、理化学研究所・分子イメージング科学研究センターの尾上浩隆チームリーダー、ならびに、浜松ホトニクス・中央研究所・PETセンターの塚田秀夫センター長の共同研究チームは、脊髄損傷後のサルの運動機能回復リハビリテーションにおいては、運動機能回復が進めば進むほど、モチベーションをつかさどる脳の部位と運動機能回復をつかさどる脳の部位の活動の間に強い関連性が生まれることを明らかにしました。この研究結果から、“元気・やる気”をつかさどる脳の働きを活発にすることで、脳神経障害患者の運動機能回復を効果的に進めることができるものと考えられます。本研究成果は、米国科学誌のプロス・ワンに掲載されます(9月28日電子版掲載)。

 研究チームが注目したのは、脊髄損傷を起こしてリハビリテーション中のサルの、情動をつかさどる脳の神経回路である“大脳辺縁系”です。その中には、”側坐核”といったモチベーションと関係する脳の部位を含んでいます。この脳の部位の活動を、ポジトロン断層法(positron emission tomography;PET)を用いて調べたところ、リハビリテーションによって運動機能回復が進めば進むほど、大脳辺縁系の脳の活動と運動機能をつかさどる脳の部位(大脳皮質運動野)の活動に強い関連が見られることが分かりました。研究チームはさらに脳の他の部位も調べたところ、前頭葉の眼窩前頭皮質といった情動と関連する他の脳の部位との関連性も、運動機能回復によって高まっていくことを明らかにしました。

西村准教授は「実際、運動機能回復のためのリハビリテーションにおいては、神経損傷後のうつ症状は運動機能回復の妨げになっていました。今回の実験結果から、リハビリテーションにおいては、運動機能に着目するばかりではなく、精神神経科の先生を加えた心のケアやサポートが重要であるといえます」と話しています。

本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の「脳情報の解読と制御」研究領域(研究総括:川人 光男 (株) 国際電気通信基礎技術研究所 脳情報通信総合研究所 所長)における研究課題「人工神経接続によるブレインコンピューターインターフェイス」(研究代表者:西村 幸男)の一環として行われました。

今回の発見

脊髄損傷後のリハビリテーションによって運動機能回復期にあるサルの脳の活動を、ポジトロン断層法(PET)を用いて調べたところ、モチベーションや情動をつかさどる脳の部位、たとえば大脳辺縁系(腹側線条体、含む)等と、大脳皮質運動野の活動の関連性が高まっていました。

図1

脊髄損傷を起こしたサルもリハビリテーションによって指の運動機能が回復する

nishimura-1.jpg
脊髄損傷を起こしたサルは、損傷直後は、親指と人差し指をうまく使うことができず、食物をつまめませんが、リハビリテーションによって3ヵ月後には指先が自由に動くようになり、筒の中の食物を取ることが可能となります。

※参考(2007年12月14日の本研究チームのプレスリリース)
脊髄損傷からの機能回復 -“脳の働き”をサルで解明-
http://www.nips.ac.jp/contents/release/entry/2007/12/post-44.html

図2

運動機能回復期の脳の活動とその関連性

<PETによる断層像>
nishimura-2.jpg
リハビリテーションによって指の運動機能の回復期にあるサルの脳のPETによる断層像(損傷前と比較)。損傷前は大脳辺縁系(側坐核、眼窩前頭皮質、帯状回等)の活動が高まっても大脳皮質運動野の活動とは関連していません。しかし、脊髄損傷による運動機能障害がリハビリテーションで回復した後には、運動機能をつかさどる大脳皮質運動野の活動の高まりとともに、大脳辺縁系の活動の高まりがみられます。写真は、左から右へ、鼻側(前側)から後頭部側(後側)の脳の断層像。

nishimura-3.gif
脊髄損傷後の運動機能回復期においては、運動機能をつかさどる神経回路である大脳皮質運動野の活動が高まるとともに、大脳辺縁系など、“元気・やる気”といったモチベーションや情動を担う脳の部位の活動が高まることが分かりました。また、運動機能回復期においては、運動野とこれらの情動を担う脳の部位の活動が、強い関連性を持つことが分かりました。脊髄損傷前は、こうした大脳辺縁系(側坐核、眼窩前頭皮質、帯状回など)の活動の高まりと、運動野の活動との関連性は見られませんでした。

この研究の社会的意義

“元気・やる気”がリハビリテーションによる運動機能回復を効果的に促す
今回の研究結果から、“元気・やる気”をつかさどる脳の働きが活発になることで、脳神経障害からの運動機能回復を効果的に進めることができるものと考えられます。実際、運動機能回復のためのリハビリテーションにおいては、神経損傷後のうつ症状は運動機能回復の妨げになっていました。リハビリテーションにおいては、運動機能に着目するばかりではなく、精神神経科の先生を加えた心のケアやサポートが重要であるといえます。精神状態を良くする事で、二次的に運動機能回復につながることが示唆されます。

論文情報

Neural substrates for the motivational regulation of motor recovery after spinal-cord injury
Yukio Nishimura, Hirotaka Onoe, Kayo Onoe, Yosuke Morichika, Hideo Tsukada & Tadashi Isa
プロス・ワン PLoS One, 2011年9月28日号(電子版)

お問い合わせ先

<研究について>
自然然科学研究機構 生理学研究所
准教授 西村 幸男 (ニシムラ ユキオ)

教授 伊佐 正 (イサ タダシ)

独立行政法人理化学研究所 分子イメージング科学研究センター
分子プローブ機能評価研究チーム チームリーダー 尾上 浩隆 (オノエ ヒロタカ)

浜松ホトニクス株式会社
中央研究所PETセンター
PETセンター長 塚田 秀夫 (ツカダ ヒデオ)

<JSTの事業に関すること>
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究推進部(研究推進担当)
原口 亮治(ハラグチ リョウジ)


<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 広報

科学技術振興機構 広報ポータル部

独立行政法人理化学研究所 分子イメージング科学研究センター
広報・サイエンスコミュニケーター 山岸 敦(ヤマギシ アツシ)


浜松ホトニクス株式会社 広報グループ 
海野 賢二 (ウンノ ケンジ)

 

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