これまで脳の神経活動を知るには、脳波計のように脳の表面の電気活動を測るか、fMRI(機能的核磁気共鳴法)のように脳の血流を測ることしかできませんでした。したがって、脳内部の神経活動を知るには、脳の中に電極を刺していくなどの方法しかなく、脳に傷をつけてしまうこともありました。今回、生理学研究所の渡辺秀典研究員、西村幸男准教授らの研究チームは、脳表面でとらえた硬膜下皮質表面電位(Electrocorticogram ; ECoG)という電気活動から、脳の内部の神経活動をより正確に推定することに成功しました。今回の研究成果は、米国神経科学専門誌(ジャーナル・オブ・ニューラル・エンジニアリング電子版5月9日)に掲載されました。 |
今回、研究チームは、サルが腕を動かしているときの脳(運動野)の神経活動を、東京大学・鈴木隆文講師の開発したECoG電極を用いて、脳表面の32カ所(1ミリ間隔)から同時計測した電気信号から脳内部(脳表面下0.2 mmから3.2 mm)の神経活動を高い精度で推定することに成功しました。この際、神経活動の推定にはATR脳情報解析研究所の佐藤雅昭所長の開発した計算手法(“Sparse linear regression algorithm”)を用いました。つまり、これによって、脳の中に電極を刺し込まなくても、脳の表面から脳の内部の神経の活動を高い精度で知ることができるのです。
研究チームは、これまで、脳の活動に同期して義手などのロボットを動かす“ブレイン・マシン・インターフェース”という技術の開発を行ってきました。今回の研究成果によって、脳の中の神経活動を脳に電極を刺さずに知ることができれば、脳に優しい低侵襲なブレイン・マシン・インターフェースの開発につながるものと期待されます。
本研究成果は、文科省脳科学研究戦略推進プログラム課題A「ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の開発」の一環として、ATR脳情報研究所、東京大学との共同研究で行われました。
1.脳表面の硬膜下皮質表面電位(Electrocorticogram ; ECoG)でえられた電気活動から脳内部(脳表面下0.2 mmから3.2 mm)の神経活動の高精度の推定に成功しました。
脳表面に1 mm間隔で配置した32か所の電極による硬膜下皮質表面電位(Electrocorticogram ; ECoG)から、脳内部の神経細胞(脳表面下0.2 mmから3.2 mm)の電気活動を高い精度で推定することに成功しました。実記録と推定値がほぼ一致しました。
脳に優しい低侵襲なブレイン・マシン・インターフェース開発へ
手足に障害をもった方に対して、脳の活動に同期して義手や義足などのロボットを動かす“ブレイン・マシン・インターフェース”という技術の開発がおこなわれています。今回の研究成果によって、脳の中の神経活動を脳に電極を刺さずに知ることができれば、脳に優しい低侵襲なブレイン・マシン・インターフェースの開発につながるものと期待されます。
Reconstruction of movement-related intracortical activity from micro-electrocorticogram array signals in monkey primary motor cortex.
Watanabe H, Sato M, Suzuki T, Nambu A, Nishimura Y, Kawato M, Isa T (2012)
Journal of Neural Engineering (5月9日電子版掲載)
<研究について>
自然然科学研究機構 生理学研究所
研究員 渡辺 秀典(ワタナベ ヒデノリ)
准教授 西村 幸男 (ニシムラ ユキオ)
<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 広報