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TRPA1チャネルの熱感受性と細胞外カルシウム

プレスリリース 2017年3月 7日

内容

わさび受容体TRPA1は、昆虫からヒトまで存在し、様々な痛み刺激で活性化されることが知られています。ヒトTRPA1の温度感受性は明らかではないのですが、昆虫から鳥類までのTRPA1は熱によって活性化します。今回、自然科学研究機構生理学研究所(岡崎統合バイオサイエンスセンター)の富永真琴教授、齋藤茂助教、大学院生Erkin Kurganovの研究グループは、トカゲ、ヘビ、ニワトリのTRPA1の熱による活性化には、細胞外カルシウムイオンがTRPA1の特定のアミノ酸に結合することが必要であることを明らかにしました。本研究結果は、The Journal of Physiology誌に掲載されました。

 温度感受性TRP(ティー・アール・ピー)チャネルは複数知られており、例えばカプサイシン受容体TRPV1(ティー・アール・ピー・ヴィワン)は化学物質カプサイシンと熱刺激で、TRPM8(ティー・アール・ピー・エムエイト)は化学物質メントールと冷刺激で活性化します。昆虫からヒトまでのわさび受容体TRPA1(ティー・アール・ピー・エイワン)は、わさび成分で活性化しますが、その温度感受性は複雑です。哺乳類TRPA1の温度感受性は結論が得られていませんが、昆虫から鳥類までのTRPA1は熱刺激で活性化します。しかし、こうした温度感受性TRPチャネルがどのようにして温度を感知して活性化するかは、未だに分かっていません。一方、細胞内や細胞外のカルシウムイオンは温度感受性TRPチャネルの活性を複雑に制御することが知られていますが、TRPA1の熱刺激による活性化における細胞外カルシウムイオンの関与は不明でした。
 今回、研究グループはトカゲTRPA1が細胞外にカルシウムイオンが存在しない時には熱刺激によって活性化しないこと(図1)に着目して、そのメカニズムの解明を目指しました。トカゲTRPA1は細胞外のカルシウムイオン濃度依存性に熱刺激による活性化電流が観察されました。一方、ニワトリTRPA1とヘビTRPA1は、細胞外にカルシウムイオンが存在しない時にも小さいながら熱活性化電流が観察されました。3種のTRPA1でわさび成分による活性化や熱による活性化温度閾値は細胞外カルシウムイオン濃度の影響を受けませんでした。
 そこで、3種のTRPA1のアミノ酸構造を比較して点変異体解析を行うことによって、トカゲTRPA1のイオンチャネルの穴を取り囲むように位置する3つの酸性アミノ酸(負の電荷を持っています)に細胞外のカルシウムイオン(正の電荷を持っています)が結合して、熱刺激によって開きやすい構造に変わっているのだろうと考えられました。
 富永真琴教授は、「熱によるイオンチャネル開口のメカニズム解明の糸口になるかもしれません」と話しています。

 本研究は文部科学省科学研究費補助金の補助を受けて行われました。

今回の発見

  1. トカゲTRPA1、ニワトリTRPA1、ヘビTRPA1の熱刺激による活性化を比較して、細胞外カルシウムイオン依存性が異なることを明らかにしました。
  2. 3種のTRPA1のアミノ酸を比較して、細胞外カルシウムイオンが結合するであろうトカゲTRPA1の3つの酸性アミノ酸を同定しました。

図1 細胞外のカルシウムイオンの有無によるトカゲTRPA1の熱による電流の違い

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 細胞外にカルシウムイオンがあるときには、トカゲTRPA1チャネルの熱刺激による大きな電流を見ることができますが(左)、ないときには電流が観察できません(右)。わさび成分(AITC)による電流は細胞外にカルシウムイオンがないときでも観察されます。下は温度変化を示します。

図2 トカゲTRPA1の熱による活性化と細胞外カルシウムイオンの関係のモデル図

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(左)ヒトTRPA1の明らかになった原子レベルの構造から推測されるトカゲTRPA1のモデル図(一部)。矢印のところがイオンチャネルの穴。今回の研究で明らかになった3つの正電荷を持つアミノ酸(E: グルタミン酸, D: アスパラギン酸)を示します。
(右)トカゲTRPA1の熱による活性化のモデル図。TRPA1の負電荷(○中に−)をもつアミノ酸にカルシウムイオンが結合して熱によって活性化しやすくなると考えられます。

この研究の社会的意義

イオンチャネルが熱という物理刺激で開口するメカニズムの解明に至れば、温度感覚の制御法の開発につながるかもしれません。

論文情報

Kurganov E, Saito S, Saito C.T., Tominaga M. Requirement of Extracellular Ca2+ Binding to Specific Amino Acids for Heat-evoked Activation of TRPA1. J. Physiol. (in press)

お問い合わせ

<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所(岡崎統合バイオサイエンスセンター)
細胞生理研究部門
教授 富永 真琴 (トミナガ マコト)


<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室


 

リリース元

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自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室

 

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