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自分の行動が相手から評価されるときの脳の働きの一端を解明
-社会的やりとりに伴う線条体の活動は感覚野と内側前頭前野の信号から惹起される-

プレスリリース 2017年11月 6日

内容

私たちの会話では、一人が話して相手がそれに反応することが繰り返されます。話者は相手の反応が良ければうれしくなり、もっと話をしたいと感じます。これまでの研究から、お金や褒めのような報酬の情報処理には脳の深部にある線条体と呼ばれる部位が重要であり、社会的なやりとりにも関わることが示唆されてきました。しかし社会的やりとりを行う際、どのようにして線条体の反応が起きるのかについてはわかっていませんでした。
 今回、自然科学研究機構 生理学研究所の角谷基文研究員(総合研究大学院大学院生(当時))と北田亮助教(南洋理工大学准教授(現))、定藤規弘教授の研究グループは、被験者自らが大喜利をおもしろく読みあげて、その大喜利を聞いている観客の反応を受け取った際の被験者の脳活動を、機能的磁気共鳴現象画像法(fMRI)用語解説1を用いて測定しました。
 結果、大脳皮質の一部である内側前頭前野が、被験者自らが大喜利を読み上げた際に活動することがわかりました。さらに、線条体が聴覚野から受け取る観客の反応に関する信号が、内側前頭前野の活動によって変化することがわかりました。これは、社会的やりとりを行っている際、聴覚野の信号と内側前頭野の信号が統合され、結果として線条体の反応が生じることを示唆しています。本研究結果は、2017年10月1日にNeuroscience Research誌に掲載されました。

  会話のような社会的コミュニケーションは、一人が情報を伝え、もう一方の相手が情報に反応することで成立し、反応がよければ、話者はより話をしたいと感じます。このような社会的やりとりが成立するためには、自らの発話に対し、相手が反応することが必須です(図1)。線条体と呼ばれる脳部位は、誰かから褒められたり、お金などの報酬を得ることで活動すると考えられています。また近年の研究から、線条体は社会的やりとりの際にも関わり、相手の反応が自分の行動によるものであるかどうかによって活動を変えることが明らかになってきました。しかし線条体の活動が、どのようなメカニズムで変化するのか、その詳細についてはこれまでわかっていませんでした。
今回角谷研究員と定藤教授らの研究グループは、機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)を用いて実験を行いました。実験では、実際に脳活動を計測している最中の被験者自身か、あるいは別の他者のいずれかによって、画面に呈示された大喜利の回答をおもしろく読みあげます。この音声刺激に対し、観客が「大笑い」、「小笑い」、「笑い無し」のいずれかで反応しました。被験者は、観客の反応後観客のウケに対するうれしさを点数で評価しました。
 実験の結果、被験者は他者が読み上げた際の大喜利の回答に比べ、自分が読み上げた際の大喜利の回答に対して観客がウケた際、よりうれしいと報告する傾向がありました。観客の反応を聞いている際の脳活動を調べてみると、被験者自らが大喜利を読み上げた場合の方が、別の誰かが大喜利を読み上げた場合に比べ、内側前頭前野と呼ばれる脳部位はより活発に活動しました。聴覚野と呼ばれる脳部位は観客の笑い声に対して活動しました。そして、自分が大喜利を読み上げて観客が大きく笑った条件では線条体が活動しました。
本研究ではさらに、これらの脳部位間の関係を検討しました。結果、内側前頭前野の活動が、聴覚野と線条体との間にある機能的結合用語解説2を変化させていることがわかりました。これは、線条体が聴覚野から受け取る信号を、内側前頭前野の活動が変化させることを示唆しています(図3)。さらに、これらの領域間の結合の強さと社会的やりとりによるうれしさの変化量には相関があることが示されました。
 定藤教授は「今回の研究で、自分の行動が相手に評価されるときの脳の働きの一端が明らかになりました。社会的やりとりに伴う結果の価値処理には線条体だけでなく複数の脳領域が関与しており、それらの領域間の情報のやりとりがコミュニケーションから生じる楽しさに重要なのかもしれません。今後社会的やりとりのメカニズムをさらに明らかにしていくことによって、コミュニケーションを苦手とするさまざまな疾患に対する理解が深まっていくことなども期待されます。」と話しています。

本研究は文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの一環として実施され、科学研究費補助金の補助を受けて行われました。

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今回の発見

  1. 社会的やりとりにおいて、内側前頭前野は感覚野と線条体の機能的結合を変化させることがわかりました。
  2. 内側前頭前野・感覚野・線条体の間の機能結合の変化は、他者の反応に対するうれしさに関与することがわかりました。

図1 社会的やりとりに関するメカニズム

20171106sadato-1.png社会的やりとりにおける脳の反応がどのようにおきるかを明らかにするため、①自分の関与、②相手の反応、③社会的やりとり、の3要素に対応する活動を調べました。

図2 実験課題

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実験中に被験者は大喜利の回答をおもしろく読みあげ、観客の反応を聞きました。MRIを用いて脳活動を測定するため、被験者はスキャナーの中で横になりながら課題を行いました。

図3 本研究が提案する社会的やりとりに関する脳内ネットワーク

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fMRIデータを解析した結果、自分の関与には内側前頭前野が、相手の反応には聴覚野が、社会的やりとりには線条体が関与していることがわかりました。本研究ではさらに、これらの脳部位間の関係を検討するために、生理−生理交互作用解析とよばれるネットワーク解析を実施しました。その結果、内側前頭前野の活動は聴覚野と線条体の関係性を示す機能的結合を変化させることがわかりました。これは聴覚野から線条体が受け取る信号を内側前頭前野が変化させることを示唆しています。

この研究の社会的意義

日常のコミュニケーションは社会的随伴性のうえに成立しています。自分の行動が相手から評価されるときの脳の働きを明らかにしていくことで、コミュニケーションに障害があるとされる疾患に対する理解が深まることが期待されます。

用語解説

  1. 機能的磁気共鳴画像法(fMRI):局所的な神経活動に伴って、血液中の酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの量が変化する。この血液中の変化を反映するとされる信号(BOLD信号)を測定する手法。
  2. 機能的結合:異なる脳部位同士の統計学的依存性のこと。脳活動の時間的な相関に基づいて推定される。

論文情報

Brain networks of social action-outcome contingency: the role of the ventral striatum in integrating signals from the sensory cortex and medial prefrontal cortex  
Motofumi Sumiya, Takahiko Koike, Shuntaro Okazaki, Ryo Kitada, Norihiro Sadato
Neuroscience Research 2017年10月1日掲載

お問い合わせ先

<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 心理生理学研究部門
教授 定藤規弘(サダトウ ノリヒロ)

南洋理工大学(シンガポール)
准教授 北田亮(キタダ リョウ)

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室

リリース元

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自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室

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