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電子顕微鏡の像コントラストを飛躍的に向上させる手法を開発
― フレネルゾーンプレートを用いた新規位相差STEM法 ―

2020年9月 8日 プレスリリース

内容

これまで電子顕微鏡は、生体分子や有機材料などの軽い原子からなる試料を直接観察するのには向いていませんでした。電子線が試料中でほとんど散乱や吸収されず、十分な像コントラストが得られないためです。今回、自然科学研究機構 生理学研究所の村田和義准教授らは、東北大学の百生敦教授と共同でフレネルゾーンプレートを用いた新規位相差STEM法を開発し、電子顕微鏡の像コントラストを飛躍的に向上させることに成功しました。本研究結果は、英国科学誌Ultramicroscopy 2020年11月号(オンラインpre-proof版8月5日解禁)に掲載されます。

1. 背景
電子顕微鏡は、光学顕微鏡では見えない試料の分子や原子レベルでの観察のために用いられますが、生体分子や有機材料などの軽い原子からなる試料の直接観察には向いていませんでした。軽い原子中では電子線がほとんど散乱や吸収されず、十分な像コントラストが得られないためです。この問題を解決するために、試料中の電子線の屈折と干渉を利用した位相差電子顕微鏡の開発が進められてきました。しかし、これらの位相差電子顕微鏡では、このための位相板を対物レンズの直後に配置しなければならず、集光した強力な電子線に曝されるためにすぐに変性・劣化して使えなくなってしまうことが問題でした。

2. 研究結果
今回、研究グループはSTEM※1を使って、この位相板を対物レンズよりも前方に配置することで、位相板の変性・劣化を防ぎ、かつ像コントラストを飛躍的に向上させることに成功しました(図1)。位相板にはレンズ作用を持った回折格子であるフレネルゾーンプレート(FZP)※2を専用にデザインし、窒化ケイ素膜という厚さわずか20 nm(1 nmは100万分の1 mm)の薄膜の上に、半導体加工などで使用される「集束イオンビーム」という特殊な装置を用いて作製しました(図2挿入写真上)。今回の新規位相差STEM法の原理について簡単に説明します(図2)。電子線が試料の手前に置かれたFZPを通過する際にその一部が散乱されて収束もしくは発散することで、主に3種類の電子線に分離されます。その結果、焦点面の異なる複数の電子線で試料を走査(スキャン)することになります。FZPにより散乱された電子線は、同時にその波の位相※3がそれぞれ90度ずれるという性質も併せ持っています。このことによって、試料で散乱された電子線が後方の検出器のところで電子線の干渉パターン(図2挿入写真下)として記録されることになります。この干渉パターンをもとに試料の像を再構築します。波の干渉という現象は、通過する試料の状態に非常に敏感に反応するため、試料をより高いコントラスト(濃淡)で観察することが可能になります。さらに研究では、カーボンナノチューブという炭素でできたロッド状の試料を従来法に比べて非常に高コントラストで画像化できただけでなく、ロッドが交差した部分の画像から、コントラストがここのCNTの重ね合わせに比例している(定量的である)ことも示されました(図1矢頭)。

3. 研究成果
本研究では、フレネルゾーンプレート(FZP)を用いた新規位相差STEM法を開発することにより、像コントラストを飛躍的に向上させることに成功しました。これまでにも類似の方法が試みられていますが、その中でも今回開発した方法はFZP自体の劣化がほとんどなく、像撮影後の複雑な画像処理が必要ない上に、画像が定量的(像のコントラストが試料の大きさ(重ね合わせ)に対応している)である点で非常に有効であります。

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(略称JST)ERATO 「百生量子ビーム位相イメージング」の支援を受けて行われました。

今回の発見

  1. フレネルゾーンプレートを用いた新規位相差STEM法を開発した。
  2. 位相板の劣化がほとんどない上に像コンラストが飛躍的に向上した。
  3. 像コントラストが試料の大きさ(重ね合わせ)に比例する(定量的である)ことがわかった。

図1 カーボンナノチューブ(CNT)のFZP位相差STEM像

20200908murata-1.pngA)従来のSTEM像、B)FZP位相差STEM像。細いCNTもはっきりと確認できる(矢印)。CNTが交差した部分は、それぞれを足し合わせた濃度になる(矢頭)。

図2 FZP位相差STEM法の概略

20200908murata-2.pngFZP位相差STEM法では、試料の前方にFZPを挿入することで電子線をあらかじめ分離し、これで試料をスキャン(走査)する。その干渉パターンが試料の後方でカメラによって記録される。この干渉パターンから試料の像を再構築する。

この研究の社会的意義

本開発により、これまでは直接見ることができなかった軽い原子でできた生体物質や有機材料などの直接観察で、より正確なCT※4による三次元構造解析が可能になります。このことで、ナノテクノロジーや医学生物学における分子スケールでの解析が進展すると期待されます。

用語解説

※1 STEM
STEM(Scanning Transmission Electron Microscope)は、日本語では走査透過型電子顕微鏡と訳される。試料を集束した電子線により走査(スキャン)し、その各走査点を透過してきた電子線を検出して画像化する。

※2 フレネルゾーンプレート
フィルムに周期的な同心円状のパターンを刻むことでレンズ作用を持たせた回折格子。

※3 位相
周期的に繰り返される波(山と谷)のそのある特定の領域またはタイミング。

※4 CT
CT(Computed tomography)は、日本語では断層撮影法と訳され、試料の投影像を様々な角度から記録し、計算機を用いてもとの三次元像を再構築する方法である。

論文情報

Enhancement of low-spatial-frequency components by a new phase-contrast STEM using a probe formed with an amplitude Fresnel zone plate
Masato Tomita, Yukinori Nagatani, Kazuyoshi Murata and Atsushi Momose
Ultramicroscopy.  2020年 11月号掲載予定(オンラインpre-proof版8月5日解禁)
https://doi.org/10.1016/j.ultramic.2020.113089

お問い合わせ先

<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 脳機能計測・支援センター形態情報解析室
准教授 村田 和義(ムラタ カズヨシ)

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室(広報)

国立大学法人 東北大学 多元物質科学研究所 広報情報

リリース元

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自然科学研究機構 生理学研究所
国立大学法人  東北大学

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