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サルも動きがシンクロする?
~ニホンザルが運動リズムを自然と同調させることが明らかに~

プレスリリース 2023年5月30日

概要

 コンサートで拍手のリズムが自然と重なったり、友人と歩いているときに歩くテンポがいつのまにか揃ったりと、他者の動きやリズムと、自分の動きやリズムが意図せずに合う現象は、多くの人が経験し、我々の対人関係や集団・社会形成の礎の一つと考えられています。このような現象は、複雑な社会を形成するニホンザルでも見られるのでしょうか?今回、自然科学研究機構生理学研究所の戸松彩花特任准教授および磯田昌岐教授は、ニホンザルも相手サルの動きに自然と同調し、さらに、社会的な序列が高いサルほど動きが同調しやすいという事を明らかにしました。本研究結果は、Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS) 誌(2023年5月30日号)に掲載されました。この研究は文部科学省科学研究費補助金、日本医療研究開発機構および堀科学芸術振興財団の研究助成により行われました。

 音楽に合わせて身体でリズムをとったり、複数人での手拍子を練習もなく、ぴったり合わせたりすることは、多くの人にとって日常的な光景です。これが苦もなくできるのは、私たちの中に外部リズムと同調しやすい神経回路が存在するためではないかと考えられます。その神経回路のはたらきによって、意図せずに他者と運動が同調してしまうのではないかと私たちは考えています。
 運動の同調は集団への帰属意識にかかわると、古くから哲学的に論じられてきました。実際に、近年の研究では、同調動作の経験が同調相手への好意を高めることが明らかになっています。このように運動の同調は、私たちが社会を形成する上で重要な現象とみなされながら、詳しい神経メカニズムはまだよくわかっていません。神経メカニズム解明のためにも、進化的な見地からも、ニホンザルで同様の現象が存在するのかどうかが注目されていました。

 そこで研究グループは、神経メカニズム解明の第一歩として、複雑な社会を形成するニホンザルにおいても運動の同調がみられるのかを検証しました。本研究では、以下の3つの条件のもとで、ニホンザルが、自由なリズムでレバーを左右に操作する運動を行いました。
(1) 「ペア」条件:同じ運動をする他のサルと向かい合わせ
(2) 「サル動画」条件:同じ運動をするサルの動画と向かい合わせ
(3) 「レバー動画」条件:レバーだけが動く動画と向かい合わせ

 その結果、サルの運動リズムは、相手が行う運動リズムに同調することが明らかになりました。またその効果は、レバーだけが動く条件や、動画のサルと向かい合わせの条件に比べて、実在のサルが目の前にいる「ペア」条件のときに最も強いことがわかりました(図1)。さらに、このような運動の同調は、互いに相手の運動をよく観察するときに、より顕著になりました(図2)。

 また、ニホンザルは群れの中で序列を作ることが知られているため、研究グループは、社会的序列と運動リズムの同調のしやすさとの関係を検証しました。その結果、序列の高い個体が相手に合わせて動作をする割合が高い、ということもわかりました(図3)。序列の高い個体は、集団行動の中で、相手に注目し行動を先読みする能力が高いと考えられるため、実験でも、これらの性質が発揮されて、相手に同調した運動リズムがつくられたのかもしれません。

 今回の研究では、ニホンザルに人間と共通する運動同調の現象が存在し、相手の実在性や、序列との関連性など、社会形成とのかかわりが深いことが明らかになりました。この成果は、私たちの中にあると考えられる「外部リズムと運動同調しやすい神経メカニズム」の解明につながると期待されます。

 本研究は文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクト「ニホンザル」の支援、及び文部科学省科学研究費補助金 (19K07810, 22K07337, 22H04931)、日本医療研究開発機構(AMED) (JP18dm0307005)、および堀科学芸術振興財団の助成を受けておこなわれました。

今回の発見

  1. ニホンザルのリズム運動が、他者のリズムに影響されることを発見しました。
  2. その影響は、動画よりも、他者が目の前に実在するときに強く、特に相手を良く見ているときほど強いことがわかりました。
  3. その影響は、立場の序列という社会性と関連が深い現象であることがわかりました。
 

図1 実験条件と同調の強さ

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サルは生体同士がリアルタイムで対面する「ペア」条件、生体とサルの動画が対面する「サル動画」条件、生体とレバーの動画が対面する「レバー動画」条件で、レバーの往復運動をおこなった。同調の強さはペア条件で最も強かった。

図2 相手をよく見ていることの効果

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「ペア」条件を、互いに相手をよく見ていた時と、互いにあまり見ていなかった時に分けて比較すると、互いによく見ていた時に、より強い同調が観察された。

図3 序列と同調の強さ

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サルの序列は、おやつの獲得競争で測定した。最も序列が高いサルは、実験で観察される同調が最も強かった。

この研究の社会的意義

 他者と運動が同調するという日常的な場面は、私たちが社会を形成するための重要な要素の表れだと考えられています。しかし、その神経メカニズムの詳細は明らかではありません。今回ニホンザルで人間と同様の現象が確認されたことにより、運動同調現象の神経メカニズムの解明が今後大きく進展することが期待されます。

論文情報

Tuning in to real-time social interactions in macaques. 
Saeka Tomatsu and Masaki Isoda.
Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS).
2023年 5月30日号掲載

お問い合わせ先

<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 認知行動発達機構研究部門
教授 磯田 昌岐 (イソダ マサキ)

<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室

リリース元

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自然科学研究機構 生理学研究所

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