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動物の多くの組織では、幹細胞が増殖して新しい細胞を供給することで、古くなった細胞や傷んだ細胞を補っています。一方で、幹細胞が必要以上に増えると腫瘍の形成など組織の異常につながるため、その数は適切にコントロールされています。しかし、その仕組みには未解明な点が多く残されています。今回、自然科学研究機構生理学研究所の泉裕士准教授と古瀬幹夫教授の研究グループは、ショウジョウバエの腸を用いた研究により、幹細胞から生まれて成熟していく途中の細胞(前駆細胞)が、細胞同士をつなぐ接着分子を介して幹細胞の“増えすぎ”を防ぐ仕組みを解明しました。本研究結果は、Journal of Cell Biology誌2026年9月7日号に掲載されます(先行オンライン公開 : 2026年7月7日)。 |
背景
動物の多くの組織では、古くなった細胞や傷んだ細胞を補うために、幹細胞が増殖して新しい細胞を生み出しています。しかし、幹細胞が必要以上に増えてしまうと、腫瘍の形成など組織の異常につながるため、その増殖は適切にコントロールされています。
これまでの研究で、研究グループは、ショウジョウバエの腸で、細胞と細胞を接着させるために必要なタンパク質(sSJ構成タンパク質
注1)が失われると、幹細胞が過剰に増殖し、腫瘍が形成されることを見出していました。しかし、sSJ構成タンパク質がどのような仕組みで幹細胞の増殖に関わっているのかは明らかになっていませんでした。
本研究の発見
今回、研究グループは、幹細胞から生まれて成熟していく途中の細胞(前駆細胞
注2)に着目し、sSJ構成タンパク質と幹細胞増殖との関係を調べました。
正常な腸において、前駆細胞が成熟していく過程を観察したところ、頂端部にsSJ構成タンパク質が集まるにつれて、aPKC
注3と呼ばれる、細胞増殖に関わる酵素が減少することを見出しました(図1上, 図2)。
一方、sSJ構成タンパク質を失った腸では、頂端部にaPKCが残ったままの前駆細胞が多く観察されました(図1下, 図3)。
これらの結果から、前駆細胞の頂端部において、
sSJ構成タンパク質がaPKCを排除することで、幹細胞の異常な増殖を防いでいることが示唆されました。
そこで、実験的にaPKCを前駆細胞の頂端部に発現させたところ、実際に幹細胞の増殖が誘導されることも明らかになりました。これらの結果は、
前駆細胞の頂端部に残ったaPKCが、幹細胞の異常増殖を促進するシグナルの発生に関与していると考えられます。
さらに詳しく調べた結果、前駆細胞の頂端部に残ったaPKCが、細胞増殖を調節する因子Kibra
注4の機能を阻害していることが分かりました。Kibraは、細胞増殖を抑える働きを持つため、aPKCによってその働きが弱められることで、細胞増殖を促進するシグナルが活性化されると考えられます(図4)。
以上の結果から、分化中の前駆細胞では、
細胞接着構造を構成するsSJ構成タンパク質がaPKCを頂端部から排除し、Kibraの機能を維持することで、幹細胞の増殖を適切に調節していることが明らかになりました。
泉准教授は「今回の研究では、分化の途中にある前駆細胞が、細胞間接着分子を介して幹細胞の増殖を調節する新たな仕組みを明らかにしました。これは、細胞間接着分子のこれまで知られていなかった役割を示す発見であり、組織の恒常性が維持される仕組みの理解を深める成果です。本成果はショウジョウバエをモデルとして得られたものですが、将来的にはヒトにおける組織の維持や、がんの発生機構の理解にも貢献することが期待されます。」と話しています。
<助成金など>
本研究は文部科学省科学研究費補助金(課題番号19K06650, 22K06229, 25K09638)の補助を受けて行われました。
今回の発見
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ショウジョウバエの腸では、細胞接着に重要なタンパク質(sSJ構成タンパク質)を失うと、前駆細胞の頂端部にaPKCが異常に蓄積することで、幹細胞の過剰増殖が起こることを明らかにしました。
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分化過程にある前駆細胞では、sSJ構成タンパク質がaPKCを頂端部から排除することが、腸幹細胞の正常な増殖制御に重要であることを明らかにしました。
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分化過程にある前駆細胞において、sSJ構成タンパク質―aPKC―Kibra経路を介して幹細胞の増殖が調節される新たな分子機構を明らかにしました。
用語解説
注1)sSJ構成タンパク質: ショウジョウバエの腸で、細胞同士をつなぐ細胞間接着構造「スムースセプテートジャンクション(sSJ)」を構成し、腸のバリア機能の維持に重要な役割を果たすタンパク質。
注2)前駆細胞:幹細胞から生み出され、成熟した細胞へと分化する途中段階の細胞。
注3)aPKC (atypical protein kinase C):種をこえて保存されている細胞の極性形成に関わるタンパク質リン酸化酵素。ショウジョウバエ、哺乳類を問わず様々な組織において細胞増殖に関わる。
注4)Kibra:細胞の増殖や組織の大きさを適切に保つシグナル伝達経路「Hippo経路」の働きを促進し、細胞の過剰な増殖を抑える調節因子。
図1 sSJ構成タンパク質を失うと、前駆細胞の頂端部にaPKCが残存し、幹細胞が異常増殖する。
正常な腸では、前駆細胞の頂端部においてsSJ構成タンパク質の局在が増加するのに伴い、aPKCは減少しました。一方、sSJ構成タンパク質を失った腸では、分化後期に達した前駆細胞においても、頂端部にaPKCが残存する細胞が多数観察されました。これらの結果から、前駆細胞の分化後期において、sSJ構成タンパク質はaPKCを頂端部から排除する役割を担うことが示唆されました。
図2 正常な腸では、分化過程の前駆細胞の頂端部にsSJ構成タンパク質が集まるのに伴い、aPKCが減少する。
前駆細胞の分化の初期段階では、頂端部にaPKCとsSJ構成タンパク質の両方が局在していましたが、後期段階では、sSJ構成タンパク質の頂端部への局在が増加するのに伴い、aPKCの局在は減少しました。(矢印は前駆細胞の頂端部を指しています。)
図3 sSJ構成タンパク質を失った腸では、分化後期にもかかわらず頂端部にaPKCが残ったままの前駆細胞が多く観察される。
sSJ構成タンパク質を失った腸では、分化初期のみならず、分化後期に達した前駆細胞においても、aPKCが頂端部に残存していました(矢印は頂端部に局在するaPKC、点線は細胞の輪郭を示しています)。
図4 sSJ構成タンパク質を失った腸で、幹細胞が異常増殖するメカニズム
頂端部に残存したaPKCはHippo経路の調節因子Kibraの機能を阻害し、その結果、幹細胞増殖シグナルを活性化すると考えられます。
この研究の社会的意義
本研究は、組織の恒常性維持に重要な幹細胞の増殖を調節する新たな分子メカニズムを明らかにしたものであり、将来的には幹細胞異常による組織疾患や、がんの発症機構の理解につながることが期待されます。
論文情報
aPKC exclusion from the apical cortex in enteroblasts maintains stem cell homeostasis in Drosophila
Yasushi Izumi & Mikio Furuse.
Journal of Cell Biology. September 7th, 2026
(Online release date: July 7th, 2026)
Vol. 225 no. 9. DOI: 10.1083/jcb.202509240
お問い合わせ先
<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 細胞構造研究部門
総合研究大学院大学 生理科学コース
准教授 泉 裕士 (イズミ ヤスシ)
email: yizumi@nips.ac.jp
<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室
email: pub-adm@nips.ac.jp
リリース元

自然科学研究機構 生理学研究所
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