自然科学研究機構 生命創成探究センター(ExCELLS)/生理学研究所の坂本 丞特任助教(研究当時)、石井 宏和助教、大友 康平准教授(兼任)、根本 知己教授は、東北大学の横山 弘之名誉教授、および同大学多元物質科学研究所の佐藤 俊一名誉教授、小澤 祐市教授との共同研究により、波長可変光源を統合した「超解像二光子顕微鏡システム」の開発に成功しました。本システムは超解像二光子顕微鏡(二光子STED顕微鏡)に使用できる蛍光色素の波長制限を克服するとともに、50 nmを下回るナノ構造の可視化に成功し、超解像二光子顕微鏡では世界最高クラスの空間分解能を実現しました。
本研究成果は、国際科学雑誌 Biomedical Optics Express(日本時間2026年7月16日付)に掲載されました。
図. HeLa細胞における微小管のナノイメージング
発表のポイント
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広い波長範囲の光を利用できるスーパーコンティニューム(SC)光源*1を統合し、蛍光色素に合わせて蛍光抑制波長を選択できる二光子STED顕微鏡を開発しました。
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4種類の蛍光色素について蛍光抑制効率を波長ごとに測定し、それぞれの色素に最適な蛍光抑制波長を見出しました。
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最適な蛍光抑制波長を使用することで、HeLa細胞*2において50 nmを下回るナノスケールの微小管構造を可視化しました。
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従来の装置では使いにくかった蛍光色素にも対応できる可能性を示し、今後の深部・多色の超解像バイオイメージングへの応用が期待されます。
背景
生命科学研究では、細胞や組織の中で起こる微細な変化を観察することが重要です。二光子励起(2PE)顕微鏡法*3は、生体組織の深部まで到達できる近赤外光を利用することで、生きた組織を比較的低侵襲で深くまで観察できるという利点があります。一方で、対物レンズや励起波長によって規定される「回折限界*4」により、300–400 nm程度の分解能しか得られません。そのため、通常の二光子励起顕微鏡法では、シナプス可塑性*5による樹状突起スパインの形態変化などのナノスケールの詳細な現象を捉えるには不十分な場合があります。この限界を超えるための技術は超解像顕微鏡法と呼ばれ、この技術のうちの一つである誘導放出抑制(STED)顕微鏡法*4は二光子励起顕微鏡法と組み合わせて使用されてきました(2PE-STED顕微鏡)。STED顕微鏡法では、蛍光を発する領域の周辺部をドーナツ状の特殊な光(STED光)で抑制することで、数十nmスケールのナノイメージングを実現します。しかしながら、このSTED光の波長(蛍光抑制波長)は従来のシステムでは特定波長に固定されていることが多く、これが原因で蛍光標識に使用できる色素の選択肢が制約を受けていました。
本研究の内容
本研究では、STED顕微鏡法における波長の制約を克服するために、広範囲の波長を選択できるスーパーコンティニューム光源を統合した、新しい二光子励起STED顕微鏡(2PE-scSTED顕微鏡)を開発しました。このシステムでは、1064 nmの半導体レーザーベースのパルス光源*6を励起光源として、640 nmから800 nmの範囲で蛍光抑制波長を変えることができ、蛍光色素ごとに最適な観察条件を調べることができます。開発したシステムを用いて、Nile red、Alexa Fluor (AF) 568、AF546、AF532の4種類の蛍光色素について、最も効率よく蛍光を抑制できる波長を調べたところ、AF532では640 nm、Nile redおよびAF546では660 nm、AF568では700 nmで蛍光抑制効率が最大になることがわかりました(図1赤矢印)。
図1. 波長ごとの蛍光抑制効率の測定結果
特にAF568は、従来の固定波長のシステムでは蛍光抑制光による直接励起*7が問題となり、二光子STED観察には使いにくい蛍光色素でしたが、2PE-scSTED顕微鏡を使用することで、この問題を避けられることを示しました。さらに、蛍光色素ごとの最適波長を使用することで、HeLa細胞内の微小管を100 nmを下回る空間分解能で超解像観察に成功しました。中でも、AF546で標識した微小管では、45 nmの構造の可視化を達成し、これは二光子励起STED顕微鏡では世界最高クラスの空間分解能を誇ります(図2)。
図2. HeLa細胞に置ける微小管のナノ構造の可視化
本研究の意義と展望
本研究の意義は、二光子励起STED顕微鏡で使用可能な蛍光色素の選択肢を広げた点にあります。従来のシステムでは、装置に搭載された蛍光抑制光の波長に合わせて蛍光色素を選ぶ必要がありましたが、開発したシステムでは、蛍光色素に合わせて蛍光抑制波長を最適化できます。また、新しく開発された蛍光色素がSTED顕微鏡に適しているかを評価するための技術としても有用です。将来的には、長波長の蛍光抑制光の利用による深部超解像イメージングや、複数波長の蛍光抑制光の利用などによる超解像イメージングの多色化にも応用可能です。現時点では、二光子励起波長が固定されていることや、スーパーコンティニューム光源の光強度に改善の余地がありますが、これらの課題を解決することで、さらなる汎用性や空間分解能の向上が期待できます。本研究では、固定細胞の観察にとどまっていますが、現状の課題を一つ一つクリアし、生命現象のありのままを映し出す「生体ナノイメージング」を目指して、技術を進歩させていきたいと考えています。
なお、本研究で開発した2PE-scSTED 顕微鏡は、⾃然科学研究機構 ⽣命創成探究センターの共同利⽤研究(https://www.excells.orion.ac.jp/equipments-for-cooperative-studies#eq10)や先端バイオイメージング支援プラットフォーム(ABiS)(https://www.nibb.ac.jp/abis/equipments/)を介して利用可能です。知る限り、⽇本で⼆光⼦励起 STED 顕微鏡を開発・運⽤している研究機関は当センターのみであり、幅広く利用者を募集しています。我々はナノイメージングを始めとした先端的なイメージング技術により、生命医科学研究のさらなる発展に貢献したいと考えております。
図3. 2PE-scSTED顕微鏡の外観
用語解説
*1 スーパーコンティニューム光源
通常、レーザーは単一の色(波長)しか出せないが、パルスレーザー光を専用の光ファイバーに入射することで、可視域から近赤外域まで幅広い波長の光を生成することができる光源。本研究では、光の波長(色に対応)を自由に選択して取り出すことのできる可変フィルターにより、640–800 nmの範囲で連続的に光を取り出すことができるようにシステムを構築している。
*2 HeLa細胞
ヒト由来の細胞株で、世界中の医学・生物学研究で標準的に使用されている。
*3 二光子励起(2PE)顕微鏡法
蛍光分子が、2つの光の粒子を同時に吸収する現象(二光子励起)を利用した蛍光顕微鏡法の一種。透過性の高い近赤外光を使用するため、可視光を利用する従来の蛍光顕微鏡法と比べて生体組織による光の減衰を受けにくく、より深部をダメージを抑えて(低侵襲)観察できる。
*4 光の回折限界、誘導放出抑制(STED)顕微鏡法
光の性質により「レンズによってこれ以上光のスポットを小さくできない」という限界(光の回折限界)で制限される蛍光顕微鏡の空間分解能の限界を突破した、超解像顕微鏡法の一種。励起光を取り囲むようにドーナツ型に整形した別の波長の光(STED光)でドーナツの穴の部分以外の蛍光を抑制し、ナノイメージングを実現する。
*5 シナプス可塑性
記憶の形成や学習に関わる仕組みの一つで、神経細胞のつなぎ目であるシナプスを介した情報の伝達効率が変化すること。シナプス後部(情報を受け取る側)を形成する樹状突起スパインの形態が変化することが知られている。
*6 半導体レーザーベースのパルス光源
一定の周期でレーザー光を周期的に発振する半導体レーザーを基にした光源。本研究では、独自開発の二光子励起光源とカスタムメイドのスーパーコンティニューム光源の2種類の半導体レーザーベースのパルス光源を採用することで、それぞれのパルスタイミングをピコ秒(1兆分の1秒)精度で同期(制御)している。
*7 直接励起
本来は蛍光を抑制する役割を持つSTED光が、蛍光分子を励起してしまうこと。STED顕微鏡法による観察時にSTED光による直接励起が起きると、通常の二光子励起による蛍光を増強してしまうため、超解像観察を行うことができない。
掲載論文
論文名: Wavelength-tunable depletion expands fluorophore compatibility in two-photon STED nanoscopy
雑誌名: Biomedical Optics Express
著者: Joe Sakamoto, Hirokazu Ishii, Kohei Otomo, Yuichi Kozawa, Shunichi Sato, Hiroyuki Yokoyama, and Tomomi Nemoto
DOI: 10.1364/BOE.603553
掲載URL: https://doi.org/10.1364/BOE.603553
著者情報
坂本 丞特任助教(研究当時:生命創成探究センター/生理学研究所、現: 浜松医科大学 助教)、石井 宏和助教(生命創成探究センター/生理学研究所)、大友 康平准教授(順天堂大学医学部、生命創成探究センター/生理学研究所(兼任))、根本 知己教授(生命創成探究センター/生理学研究所)、横山 弘之名誉教授(東北大学)、佐藤 俊一名誉教授(東北大学 多元物質科学研究所)、小澤 祐市教授(東北大学 多元物質科学研究所)
研究サポート
本研究は、AMED革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト/脳神経科学統合プログラム(JP19dm0207078, JP24wm0625105 根本知己)、JST CREST/FOREST(JPMJCR20E4, JPMJFR230R 大友康平)、科学研究費助成事業(JP20H05669, JP25H01025, JP22H04926 “Advanced Bioimaging Support”, JP22K21353 根本知己; JP18K14659, JP25K10607石井宏和; JP21K19346, JP22H02756, JP25K02402 大友康平; JP20H05891, JP26K17749, 坂本丞)、物質・デバイス領域共同研究拠点(20251096, 20251139, 20261165, 20261191 坂本丞/石井宏和)、堀科学芸術振興財団および豊秋奨学会(石井宏和)、ExCELLS若手奨励研究(24-Y9, 24-Y12, 25-Y12, 25-Y14 坂本丞/石井宏和)、 ExCELLSプロジェクト研究研究(23EXC601)、ExCELLS課題研究(24EXC204, 25EXC201 石井宏和/小澤祐市/根本知己)、先端光科学研究分野プロジェクト(01212504 坂本丞)等の支援を受けて実施されました。
お問い合わせ先
<研究に関するお問い合わせ>
⾃然科学研究機構 ⽣命創成探究センター/⽣理学研究所
教授 根本 知⼰
E-mail: tn_at_nips.ac.jp
<広報に関するお問い合わせ>
⾃然科学研究機構 ⽣命創成探究センター(ExCELLS) 研究力強化戦略室
E-mail: press_at_excells.orion.ac.jp
⾃然科学研究機構 ⽣理学研究所 研究⼒強化戦略室
E-mail: pub-adm_at_nips.ac.jp
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
E-mail: press.tagen_at_grp.tohoku.ac.jp
※_at_を@に変換してください。
リリース元

自然科学研究機構 生命創成探究センター
自然科学研究機構 生理学研究所
国立大学法人 東北大学
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