本研究のポイント
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2光子カルシウムイメージング解析を効率化するソフトウェア「OPTIC」を開発。
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異なる日に撮影した画像から同一細胞を自動追跡し、既存ツールを大きく上回る精度を達成。
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神経細胞、軸索、アストロサイト、ミクログリアなど多様な細胞種に対応。
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プログラミング不要・オープンソースとして公開。大規模・長期の脳研究を加速。
自然科学研究機構 生理学研究所の深津紀暁 特別共同利用研究員、谷隅勇太 特任研究員、Dennis Cheung 研究員、和氣弘明 教授(名古屋大学大学院医学系研究科:クロスアポイントメント)らの研究グループは、生きた動物の脳内で多数の細胞活動を観察する2光子カルシウムイメージング(注1)のデータ解析を効率化するソフトウェアツールキット「OPTIC(Optimized Toolbox for Image-Based Cellular Analysis)」を開発しました。
近年、2光子カルシウムイメージングの技術進歩により、数百から数万個の細胞を同時に、かつ長期にわたって記録することが可能になりました。しかし、得られた膨大なデータから自動解析ツールを用いて細胞を取り出す際、細胞として検出された部分(関心領域:ROI)(注2)が真の細胞であるかを検証する作業や、撮影日が異なる画像間で同一の細胞を追跡する作業は、依然として手作業に大きく依存しており、解析のボトルネックとなっていました。
そこで研究グループは、画像位置合わせ技術(画像レジストレーション)(注3)と最適輸送理論(注4)に基づく細胞追跡アルゴリズムを組み合わせ、一連の解析作業を効率化させるツールキット「OPTIC」を開発しました。このツールは、直感的な画面操作(GUI)(注5)を備えており、プログラミングなどの知識が無くても利用できます。
マウス脳を用いた検証では、神経細胞、軸索ボタン(注6)、アストロサイト(注7)、ミクログリア(注8)といった形態の異なる細胞種すべてで、既存の細胞追跡ツール CellReg および TrackMate(注9) を大幅に上回る追跡精度を達成しました。OPTICはオープンソースとして公開されており、大規模・長期的な脳活動の解析を支える基盤ツールとして、神経科学をはじめとする生命科学研究での幅広い活用が期待されます。
本研究成果は、国際学術誌「Cell Reports Methods」に掲載されます(日本時間2026年10月7日午前1時解禁)。
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研究概要
1.背景と概要
2光子カルシウムイメージングは、生きた動物の脳深部で多数の細胞活動を低侵襲に観察可能な技術であり、神経科学研究の中核として広く用いられています。神経活動に伴う細胞内カルシウム濃度の変化を、カルシウムインジケーター(注10)の蛍光シグナルとして捉えます。近年では、一度に数万個の細胞を撮影する大規模イメージングや数百Hz以上の超高速撮影が実現し、得られるデータ量は飛躍的に増大しています。
膨大なデータから個々の細胞の活動を取り出すため、Suite2pやCaImAn(注11)などの自動解析ツールが開発されてきました。このような解析ツールは画像から細胞と思われる部分(ROI)を自動検出できますが、ROIが真の細胞かノイズであるかを検証する作業や、撮影日が異なる画像間で同一の細胞を追跡する作業は、統合的なツールが十分整備されておらず、依然として多くを手作業に頼っているのが現状でした。既存の追跡ツールであるCellRegやTrackMateも、ROI形状の変動への対応や日付間の空間的ずれの補正に課題があり、長期観察に十分には対応できていませんでした。加えて、形態の複雑なアストロサイトや活発に動き回るミクログリアといったグリア細胞を含む、多様な細胞種に対応できる汎用的な解析ツールの開発も求められていました。
そこで本研究では、これらの課題を解決するため、汎用的な画像位置合わせ技術と先端的な細胞追跡アルゴリズムを組み合わせ、直感的な画面操作(GUI)を可能とした包括的ソフトウェアツールキット「OPTIC」を開発しました。
2.研究成果
本研究では、カルシウムイメージング解析に必要な一連の作業をまとめて行える包括的なソフトウェア「OPTIC」を開発しました。OPTICは、まず画像から検出された細胞の候補を分類し(図1③)、画像の位置の重ね合わせ(図1④)を行います。そのうえで、最適輸送理論によるROIの対応付け(図1⑤)や、グラフ理論による複数の日にわたる情報の統合(図1⑥)を経て、同じ細胞の長期間にわたる変化の追跡・解析を実現します。
これら一連の工程は、用途に応じた3つの専用GUIアプリケーションとして実装されています。マウスの2光子イメージングデータを用いた検証では、神経細胞、軸索ボタン、アストロサイト、ミクログリアのすべての細胞種で、既存ツールであるCellRegおよびTrackMateを大幅に上回る追跡精度を達成しました。
図1 OPTICによるカルシウムイメージング解析の全体パイプライン
用途に応じた3種類のアプリケーションは以下の通りです。
(1) OpticROICuration: ROI分類アプリケーション(図1の③に対応)
OpticROICuration(図2A)は、Suite2pやCaImAnが検出したROIを細胞種ごとに分類するアプリケーションです。検出されたROIには真の細胞だけでなくノイズによる誤検出も含まれるため、これまで研究者が一つひとつ目視で確認・分類する必要がありました。OpticROICurationでは、ROIごとにカルシウム濃度の経時変化、背景画像上での位置と形、マウスの行動データとの時間的対応を一画面で同時に確認しながら、神経細胞とノイズのみならず軸索ボタン・アストロサイトなどユーザーが定義した分類カテゴリに振り分けることができます。分類結果は作業者名と日時とともに自動的にバージョン管理され、修正履歴の追跡と再現性の確保が可能です。
(2) OpticROITracking: 経時的ROI追跡アプリケーション(図1の④~⑦に対応)
OpticROITracking(図2B)は、異なる日に撮影された2つのデータから同一のROIを自動追跡するアプリケーションです。追跡は2段階で行われます。まず画像位置合わせライブラリ「ITKElastix」により画像間のずれを補正し、次に最適輸送理論に基づくアルゴリズムでROI間の最適な対応を算出します。
性能評価では、神経細胞でF1スコア(注12)0.940を達成し、CellReg(0.444)およびTrackMate(0.210)を大幅に上回りました。形態の複雑な軸索ボタン(0.974)やアストロサイト(0.951)でも同様に高い精度を維持しました。加えて、グラフ理論(注13)に基づく独自アルゴリズムにより、3つ以上の撮影日にまたがる長期縦断解析にも対応します。
(3) OpticRawTracking: 汎用ROI解析アプリケーション(図1の①~⑦に対応)
OpticRawTracking(図2C)は、時系列の生イメージングデータ(TIFF形式)から直接ROIの抽出と追跡を行う汎用アプリケーションです。Suite2p等の他のROI抽出ツールを介さないため、入力形式や細胞種を選ばず幅広いデータに対応できます。ROI抽出は深層学習モデル「Cellpose」(注14)による自動抽出、GUI上での手動描画、画像解析ソフトウェア「ImageJ」のROI Managerプラグイン(注15)で作成されたROIの読み込みに対応します。活発に動き回り形態も複雑なミクログリアの追跡で性能を検証し、F1スコア0.906を達成、CellReg(0.340)やTrackMate(0.021)を圧倒的に上回りました。
図2 OPTICを構成する3つのGUIアプリケーション
3.今後の展望
OPTICは多様な細胞種に対応できる汎用性をもつため、今後さらに広範な研究領域への応用が期待されます。加齢や神経変性疾患、脳卒中、精神疾患のモデル動物を用いた長期縦断研究、薬剤投与や行動課題に応答する細胞集団の一細胞レベルでの同定など、基礎研究から創薬研究まで広く貢献し得ます。
OPTICはSuite2p、CaImAn、Cellpose、ImageJといった既存ツールと相互互換性をもつオープンソースソフトウェアとして、すでに公開されており、世界中の研究者が自由に利用・改良することができます。大規模化・長期化する脳イメージング研究の基盤として、脳機能の動的メカニズムの解明や、難治性脳神経疾患の病態理解と治療戦略の創出への貢献が期待されます。
4.支援・謝辞
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 基盤研究(A)(JP25H01217)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)(JPMJCR22P6)、ムーンショット型研究開発事業(JP24zf0127012、JP24zf0127010、JPMJMS2012-3-4-1)、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)(JP23gm1410011)、研究開発とSociety5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)、先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)(JP23jf0126004)、名古屋大学CIBoG WISEプログラム(文部科学省)、武田科学振興財団、光科学技術研究振興財団の支援を受けて行われました。
用語説明
注1:2光子カルシウムイメージング
2光子顕微鏡を用いて、生きた動物の脳細胞活動をカルシウム濃度の変化として可視化する技術。2光子顕微鏡はレーザー光を集光して組織深部を高解像度・低侵襲で観察できる顕微鏡であり、生きた動物の脳の長期観察に適している。
注2:関心領域:ROI(Region of Interest)
画像データの中で、細胞などの解析対象に対応すると判定された領域のこと。ROIごとに区切ることで、画像中の各細胞の活動を個別に分析できる。
注3:画像レジストレーション(画像位置合わせ)
撮影日や条件が異なる複数の画像を、同じ座標系に揃えて比較できるようにする画像処理技術。本研究では医療画像分野で広く利用されているライブラリ「ITKElastix」を採用している。
注4:最適輸送理論
2つの分布(集合)の間で「物を最小コストで運ぶ最適な方法」を数学的に求める理論。本研究では、2つの撮影画像のROIの中心(重心)座標を点群として扱い、中心間距離をコストとして最小化することで、ROI同士の最適な対応関係を計算している。
注5:GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)
画面上に表示されるボタンやアイコンをマウスで操作することで、ソフトウェアを使えるようにした方式。プログラミング言語によるコマンド入力を必要としないため、専門外の研究者でも利用しやすい。
注6:軸索ボタン
神経細胞から伸びる軸索上に多数存在する膨らみ状の構造。神経伝達物質を放出することで隣接する神経細胞との情報のやり取り(シナプス伝達)を担う場所。
注7:アストロサイト
神経細胞を取り囲んで支える星型のグリア細胞。神経細胞への栄養供給や神経伝達物質の調節など、脳機能の維持に重要な役割を担う。
注8:ミクログリア
脳内の免疫細胞。常に細い突起を動かして脳内をパトロールし、損傷した細胞や異物を除去する働きを担う。
注9:CellReg、TrackMate
本研究で性能比較に用いた既存の細胞追跡ソフトウェア。CellRegはカルシウムイメージング用に開発された追跡ツール、TrackMateは画像解析ソフトウェア「ImageJ」用の汎用的な物体追跡ツール。
注10:カルシウムインジケーター
細胞内のカルシウム濃度に応じて蛍光の強さが変化する物質。神経細胞が活動するとカルシウムが流入するため、その蛍光変化を観察することで神経活動を可視化できる。
注11:Suite2p、CaImAn
2光子カルシウムイメージングデータからROIを自動抽出するための解析ソフトウェア。
注12:F1スコア
分類や追跡の精度を評価する指標で、適合率(誤った対応の少なさ)と再現率(取りこぼしの少なさ)の両方を調和平均として一つの値にまとめたもの。最大値は1で、1に近いほど精度が高いことを意味する。
注13:グラフ理論
点(ノード)とそれらをつなぐ線(エッジ)で構成される「グラフ」を扱う数学の分野。本研究では、複数セッション間のROI対応関係をグラフとして表現し、論理的に整合する追跡結果を抽出するために用いている。
注14:Cellpose
深層学習モデルを用いて顕微鏡画像から細胞の領域を自動的に抽出するソフトウェア。
注15:ImageJ、ROI Manager
ImageJは世界中の研究者に広く使われているオープンソースの画像解析ソフトウェア。ROI Managerはそのプラグインの一つで、画像上に作成した関心領域(ROI)の登録・編集・保存・読み込みを行う。
論文情報
雑誌名: Cell Reports Methods
論文タイトル: OPTIC: A Rapid and Efficient Semi-automated Toolbox for Multicellular Calcium Imaging Analysis
著者名・所属名:
Noriaki Fukatsu1, Yuta Tanisumi2, Dennis Cheung2, Yutaro Saito1, Akari Hashimoto1,2, Nana Takahashi1,2, Ikuko Takeda1, Mio Inoue1, Andrew Moorhouse4, Hiroaki Wake1,2,3,
1. Department of Anatomy and Molecular Cell Biology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, 466-8550, Japan.
2. Division of Multicellular Circuit Dynamics, National Institute for Physiological Sciences, Okazaki 444-8585, Japan.
3. Department of Physiological Sciences, Graduate University for Advanced Studies, SOKENDAI, Hayama, 240-0193, Japan.
4. School of Medical Sciences, University of Sydney, NSW, 2006, Australia.
DOI: GitHub Repository URL: https://github.com/dhino2000/optic
お問い合わせ先
<研究について>
自然科学研究機構 生理学研究所 多細胞回路動態(兼任)
国立大学法人 東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科 分子細胞学
教授 和氣 弘明(ワケ ヒロアキ)
email: hirowake@nips.ac.jp
<広報に関すること>
自然科学研究機構 生理学研究所 研究力強化戦略室
email: pub-adm@nips.ac.jp
名古屋大学医学部・医学系研究科 総務課総務係
E-mail:iga-sous@t.mail.nagoya-u.ac.jp
リリース元

自然科学研究機構 生理学研究所
国立大学法人 東海国立大学機構 名古屋大学
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