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2005年05月11日

AMPK Family:腫瘍細胞での悪性化誘導と正常細胞での機能  ~癌生理学的研究からの見解と今後の課題~

日 時 2005年05月11日(水) 15:00 より 16:00 まで
講演者 鈴木 敦 先生
講演者所属 国立がんセンター研究所支所 がん組織生理機能解析プロジェクト、神奈川科学技術アカデミー
お問い合わせ先 箕越 靖彦 (生殖・内分泌系発達機構研究部門)
要旨

癌細胞の悪性化には、生理的環境が大きく影響し、酸素や栄養素の腫瘍血管から の供給が注目されてきた。しかし、診断技術の進歩は、ある種の腫瘍を除き、多くの 腫瘍組織では、不充分な血管新生から、多くの細胞が低栄養・低酸素という劣悪な微 小環境に曝されていることが明らかとなった。新生血管に依存性が高い肝癌細胞は低 栄養条件で死滅し、大腸癌細胞や膵癌細胞のように新生血管への依存性が低い細胞は 強い耐性を示す。低栄養・低酸素条件はAMPK-alphaを活性化し、また悪性要因であ るIGFやTGF-betaもAMPK-alphaを活性化した。上流因子としてLKB1が報告されている が、IGFやTGF-betaはLKB1非依存・ATM依存的に活性化する。AMPKには関連因子が存在 し、我々はSNARKとARK5を単離した。共に悪性腫瘍の低栄養耐性能に関与し、更 にSNARKは細胞間接着の解離を、ARK5は浸潤・転移を誘導する。ARK5は、その活性化 がAktや新規因子であるNakによって制御されている。生理活性からARK5に注目し、臨 床検体(大腸癌および多発性骨髄腫)での発現解析を行い、腫瘍悪性度との強い相関 関係を明らかにした。癌組織でのAMPK Familyの活性制御や生理機能を明らかにした が、正常組織での制御や生理機能は、特にAMPK関連因子について不明な点が多く残る。 SNARKのKO mouseでは、脳の発生異常や体躯の巨大化が認められたが、その詳細は不 明であり、ARK5は炎症部や創傷部の治癒に関与する繊維芽細胞の遊走に関与すること を見いだしたが、正常組織での主要発現部である、脳と心臓での生理機能については 不明である。特に脳での発現は非常に強く、メチレーションによる一時的な発現消失 が腫瘍化を引き起こすことが知られている。またKO mouseが作成出来ないことから重 要な生理機能に関与している可能性が強く示唆される。癌組織での動向がほぼ明らか になった現在、正常組織、特に神経系での動向解析が重要な今後の課題である。