Research

研究活動

セミナー詳細

2005年06月01日

マカクザル盲視モデルにおける残存視覚、急速眼球運動、空間的注意

日 時 2005年06月01日(水) 12:20 より 13:00 まで
講演者 吉田 正俊 助手
講演者所属 生理学研究所 発達生理学研究系 認知行動発達研究部門
お問い合わせ先 本田 学 心理生理学
要旨

第一次視覚野に損傷を持った患者では「盲視」という現象がみられることがあ る。この患者では損傷の反対側に視野欠損が起きており、欠損視野内に提示さ れた視覚刺激は意識には上らないとされている。ところがこの患者は欠損視野 内に提示された視覚刺激の位置を指差しや眼球運動によって偶然よりも高い確 率で当てることができる。この視覚的意識と視覚運動変換とが乖離する「盲 視」という現象は意識のメカニズム解明の鍵として注目を浴びてきた。
マカクザルの第一次視覚野を片側的に除去して作成した実験モデルでは人での 盲視現象と同様な行動を示すことが報告されている(Cowey and Stoerig '95)。しかし、視覚的意識は空間的注意と密接な関係にあるため、空間的注意 の効果を無視して視覚的意識について議論することはできない。そこで私はマ カクザル盲視モデルに急速眼球運動を行動の指標とした視覚運動変換課題を行 わせることで、第一次視覚野を片側性に除去したことによる視覚検出能力およ び急速眼球運動への影響を調べた。またさらに視覚運動変換が空間的注意によ ってどのように影響を受けるかについて検証した。
除去した第一次視覚野と反対側の視野(「盲」視野)での視覚誘導性急速眼球運 動課題の成績は術後2ヶ月程度で回復した。しかし視覚刺激のコントラストを下 げてテストすると「盲」視野における検出閾値は正常視野と比べて上昇してい ることが明らかになった。また、「盲」視野内の視覚標的への急速眼球運動は 不正確であり、急速眼球運動のダイナミクスも正常視野へのものと比べて変化 していることを見いだした。
また空間的注意課題の結果から、「盲」視野に提示した手掛かり刺激に空間的 注意を向けることで「盲」視野での視覚検出能力が向上することが示唆され た。またさらに記憶誘導性急速眼球運動課題の結果から、「盲」視野に提示し た刺激の位置をワーキングメモリーとして保持して将来の行動に利用できるこ とが示唆された。
以上の結果を元にして、第一次視覚野を経由しない視覚経路が持つ機能につい て議論する。