代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)は神経のシグナル伝達を担う膜上機能分
子であり、G蛋白質と共役して多様な細胞応答をもたらす。この受容体のサブタイプの一つであるmGluR1は、遺伝子欠損マウスを用いた研究などから、記憶や学習に関係する「神経回路の可塑性」、すなわち、小脳における神経シナプス伝達効率の長期抑圧や海馬における長期増強に重要な役割を果たしていることが知られている。
mGluRは、G蛋白質共役型受容体の中でもclass 3 に分類されるが、他のclass の受容体とは異なり、複数のG蛋白質と共役すること、グルタミン酸のみならずCa2+ やGd3+ などの細胞外の多価陽イオンによっても活性化されることが知られている。すなわち、mGluRを介するシグナル伝達の上流と下流には、複数の経路が存在する。われわれは、異なるタイプのリガンドであるグルタミン酸とGd3+ では、活性化されるシグナル伝達経路に差異があるのではないかという可能性を検証した。細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)変動と細胞内cAMP濃度([cAMP]i)変動を同時に記録することにより、グルタミン酸がmGluRを介してGq([Ca2+]i上昇)とGs([cAMP]i上昇)を活性化することを確認した。これに対して、Gd3+ はGqを活性化したが、Gsを活性化しなかった。これは、活性化されるシグナル伝達経路が、リガンドのタイプにより異なることを示している。
結晶構造解析の研究から、mGluRは異なる二つの活性型構造をゆうすうることが示唆されている。これは、グルタミン酸のみの場合とグルタミン酸とGd3+が共存する場合では、mGluRの細胞外領域の構造が異なるという知見による。リガンドのタイプにより活性化されるシグナル伝達経路に差異が生じるというということは、リガンドによりもたらされる受容体の立体構造の差異に起因する可能性があるため、FRET(Fluorescent resonance energy transfer)を用い、さらに、検討をおこなった。
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