日 時 | 2005年07月29日(金) 16:00 より 17:00 まで |
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講演者 | 松井広 博士 |
講演者所属 | Oregon Health & Science University, Vollum Institute |
お問い合わせ先 | 重本隆一 (生理研 脳形態解析研究部門 5278) |
要旨 |
従来、ニューロン―グリア細胞間の情報伝達の多くは、シナプス前細胞からシナプス間隙に向けて放出された伝達物質が、シナプス間隙からあふれ出て、グリア細胞まで拡散(スピルオーバー)した結果、起きる現象であると考えられてきた。つまり、ニューロンからグリア細胞への情報伝達は、ニューロン間のシナプス伝達の副産物とされてきたのである。しかし、私たちの研究は、シナプス前細胞のシナプス小胞が、シナプス間隙に向けて放出されるだけでなく、グリア細胞のほうに向けても放出されていることをつきとめた。この現象を「異所放出」とよぶ。このたびのセミナーでは、小脳登上線維からプルキニエ細胞へ向けた通常の放出と、バーグマングリア細胞に向けた異所放出との特性の違いを説明する。また、グリア細胞のCa2+透過型AMPA受容体の性質、その分布の仕方や密度を、電気生理学的手法および免疫電顕による定量的解析法を用いて調べ、これらの解析結果も紹介する。さらに、AMPA受容体のマルコフ・モデルを使用し、異所放出による一過性の現象として、シナプス外でのグルタミン酸濃度が1-2mM濃度まで上昇することを示す。結論として、高濃度のグルタミン酸によってしか活性化されない低親和性のAMPA受容体がグリア細胞に存在し、それらのAMPA受容体は、スピルオーバーによってではなく、異所放出によって活性化されていることを述べる。最後に、これらのAMPA受容体が活性化されることによって、活動の盛んなシナプスの位置情報がグリア細胞に伝わり、それを受けてグリア細胞がそれらのシナプスを取り囲むようになる、という仮説を紹介する。 |