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セミナー詳細

2007年03月08日

ヒト側頭極は何をしているか

日 時 2007年03月08日(木) 12:20 より 13:00 まで
講演者 杉浦 元亮 先生
講演者所属 大脳皮質機能研究系心理生理学部門
お問い合わせ先 分子神経生理部門 小野 勝彦
要旨

ヒトの側頭葉の前端部「側頭極」は謎の領域である。脳損傷患者の研究では、 この領域の損傷によって逆行性健忘(自分の過去や知人など、自伝的記憶が思 い出せない)や人物認知障害が起きることから、自伝的記憶の想起に関与して いる可能性が示唆されている。脳機能イメージングでも、この領域が自伝的記 憶の想起や人物認知によって活動することが示されている。しかし、単語リス ト等を用いた典型的な出来事記憶想起課題では、この領域が活動するという報 告はない。一方で、最近の脳機能イメージング研究では、文章理解課題、情動 を誘発する課題、社会認知を要求する課題等、直接自伝的記憶とは関係のない 課題を遂行する際に側頭極が活動するという報告が増えている。私はこれまで のPET・fMRI研究で、側頭極が人物認知において記憶内容そのものでは なく、記憶内容を関連付ける役割に関係している可能性を示してきた。そし て、この「関連付ける」という概念を発展させ側頭極の機能を一般化できるの ではないかと予想している。
 今後の側頭極研究はシステム脳科学研究諸領域の総力戦になるであろう。重 要課題として、まず側頭極の根本的(primary)な機能概念の探索、すなわち「側 頭極は何をしているのか」が挙げられる。この課題に対してはPETや fMRIを用いたイメージング研究に社会心理学的な多変量解析的アプローチ を取り入れることで概念的な進展が期待される。また、側頭極が解剖学的に複 数の領域に細分化されることがサルの研究で示されており、側頭極のサブ領域 の考え方をヒト脳の研究に取り入れる必要がある。その際には他領域との繊維 連絡についての動物解剖研究とヒト脳イメージング研究との積極的な比較検討 が必要である。さらに、「関連付ける」ことが側頭極の特徴だとすれば、 MEGやEEG等の時間分解能に優れたイメージング手法を用いることで、側 頭極の役割を逐次的な認知処理過程の中に位置づけることが必要であろう。ま た、ヒト脳における機能領域同定で中心的な役割を果たすと期待される fMRIにおいては、側頭極近傍における磁化率アーチファクトの問題にどう 対処するかという技術的問題も重要検討課題である。