日 時 | 2008年07月17日(木) 10:00 より 11:00 まで |
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講演者 | 渡辺 雅之 先生 |
講演者所属 | カナダ・クイーンズ大学研究員 |
お問い合わせ先 | 伊佐 正(認知行動発達 内線:7761) |
要旨 |
感覚入力に対して状況に応じた適切な行動を発現する能力は、我々の日常生活において重要な機能の一つである。この機能を評価する非常に単純な行動課題として、呈示された視覚刺激とは反対方向に視線を移動させるアンチサッカード課題が最近注目されている。アンチサッカードを成功させるためには、視覚刺激に視線を移動しようとする自動的なサッカード(プロサッカード)を抑制し、視覚刺激の反対方向への随意的なサッカードを促進する必要がある。パーキンソン氏病等の前頭葉―大脳基底核の神経回路に疾患を持つ患者は、このアンチサッカードに必要な抑制、促進に障害があることが示されている。前頭葉と大脳基底核の緊密な解剖学的関係を考慮すると、いずれか一方が障害を受けることにより類似した機能障害が生じるとこが予想される。様々な実験手法を用いて、アンチサッカード制御に対する前頭葉の関与について明らかにされてきた。しかし、大脳基底核の関与については、ヒトの神経心理学的研究から矛盾する報告がなされている。そこで今回、大脳基底核のアンチサッカード制御に対する役割を明らかにするために、大脳基底核の入力段階である尾状核から神経細胞活動の記録をアンチサッカード課題遂行中のサルから行った。さらに尾状核の微少電気刺激、局所薬物注入(GABAA受容体作動薬のムシモルによる活動のブロック)による神経細胞活動の人工的操作が与えるアンチサッカードへの影響を解析した。今回報告する実験結果は、尾状核の投射細胞が、サッカードを促進、抑制する信号を伝達していることを示し、大脳基底核がアンチサッカードの制御に関与している仮説を支持する。さらに、よく知られた大脳基底核の神経回路の構造に基づき、我々はこれらのサッカード促進、抑制信号は、二つの並列経路(直接路、間接路)によって制御されているという仮説を提案したい。 |