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2008年12月22日

溶液中の金微粒子へのレーザー照射により生ずる超高温高圧領域の生体分子分析への応用

日 時 2008年12月22日(月) 15:30 より 16:30 まで
講演者 武田 佳宏
講演者所属 (株)コンポン研究所  参考:トヨタの自由発想に基づく研究所です
お問い合わせ先 生体恒常機能発達機構研究部門  鍋倉 淳一
要旨

金微粒子はその光学的特性や生体分子に対する高い親和性、また生体分子と同程度の大きさを有することから生体分子プローブとして広範に使われている。さらに溶液中の金微粒子に対して、微粒子が吸収する波長のパルスレーザーを照射すると金微粒子が多光子吸収し電子励起される。この電子励起エネルギーは熱に変換され、さらに周囲の溶媒へと拡散し、金微粒子近傍に直径100 nm 程度の超高温高圧領域を生成する。この領域では、衝撃波やキャビテーション発生、金微粒子の溶解や蒸発などが起こり、温度は数千 K、圧力は108 N/m2以上に達する。しかも領域外では室温であるという他の方法では実現できない非常に特異な領域である。この超高温高圧領域を利用して生体分子を選択的に分解する方法を研究した。

金微粒子の分散液にリゾチームとBSAを添加し、溶液のpHを変えて10 nsのパルスレーザー照射をおこない、金微粒子の周囲に生ずる超高温高圧領域によるタンパク質の分解について調べた。pHが7.0から11.0付近ではリゾチームの総電荷が正となり、ゼータポテンシャルが負の金微粒子と相互作用すると同時にリゾチームの正の総電荷はそれ程大きくないため、リゾチームどうしの相互作用も妨げられない。その結果、金微粒子の周囲に凝集したリゾチームのみ効率的に分解された。pHが4.0付近ではリゾチームの正の電荷量が大きくなり、リゾチーム分子どうしの反発は増加する。よって、金微粒子の周囲に多くのリゾチームが凝集できないので、分解効率は低下した。一方、BSAの総電荷は正となるので、金微粒子と相互作用し、効率的に分解された。

次に標的DNAの選択的分解を行った。標的DNAと塩基対を形成するプローブDNAの結合した金微粒子を作製し、これを標的DNAと非標的DNA を含む溶液に添加した。プローブDNAは標的DNAにハイブリダイゼーションし、金微粒子は標的DNAに特異的に配位する。その後、金微粒子にパルスレーザーを照射し、標的DNAと非標的DNA の量をPCR法により測定した。その結果、レーザー強度が 1.5 mJ/pulse以上6.0 mJ/pulse以下の時、標的DNAのみが選択的に分解された。さらにDNA分解の詳細なメカニズムについて検討した結果、主に超高温高圧領域中で発生するキャビテーションによって分解されることがわかった。