シナプス両側の特殊化されたサイトには、足場タンパク質、神経伝達物質受容体、イオンチャネル、シグナル伝達分子などの複合体が集積し、効率的な神経細胞間の情報伝達を支えている。これらのタンパク質複合体の局在決定や量の調節は、シナプスの伝達効率や可塑性を調節する上で重要であると考えられるが、これらのシナプスタンパク質がどのように調節されているかは不明な点が多い。
シナプス構築分子
私は神経後シナプス肥厚PSDに局在する多数の新しい構成因子SAPAP、BEGAIN (JBC 1998)、S-SCAM (JBC 1998)、synamon (JBC 1999)、MAGUIN (JBC 1999, BBRC 2000)を同定し、NMDA受容体の足場蛋白質を含む膜裏打ち蛋白質群であることを報告し、これらが神経シナプス接着分子や神経伝達物質受容体、可塑性に関わるシグナル分子等を神経シナプスに繋留する機構を解明した(JNS 2002, EJNS 2002, JNS 2002, GtoC 2003)。さらに、同定した裏打ちタンパク質の抗体を作成し、そのアイソフォームの局在を電子顕微鏡で検討した(MCB 2003)。
シナプス脱構築に関わるユビキチンリガーゼ
次に、シナプス伝達調節に関わる分解系に着目し、新規の蛋白質翻訳後修飾酵素であるSCRAPPER蛋白質を発見した(Cell 2007)。SCRAPPERはプレシナプスの可塑性調節因子RIM1に結合し、ユビキチン化を行い、プロテアソームでの分解に誘導する。 Scrapper遺伝子KOマウスの脳を電子顕微鏡で野性型との比較定量解析を行い、シナプス小胞の密度分布のばらつきがあること、シナプス、小胞の数、 PSDおよびactive zoneの長さには差がないことを明らかにした。我々の研究から、SCRAPPERはRIM1のプロテアソーム依存的な分解を介したシナプスの活性の調節に重要であることが明らかとなった (Yao et al., Cell 2007)。
質量顕微鏡法
さらに、Scrapper遺伝子KOマウスをモデルとして、質量顕微鏡法による遺伝子改変マウスのプロテオーム解析を行った。多変量解析法の1つである主成分分析法を世界で初めて質量顕微鏡法に応用し、異常を検出することに成功している (Proteomics 2008)。今回、これらの知見をご紹介したい。
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