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セミナー詳細

2010年07月16日

シナプス接着因子Neuroligin と自閉症との関係

日 時 2010年07月16日(金) 12:00 より 13:00 まで
講演者 田渕克彦 准教授
講演者所属 脳形態解析研究部門
お問い合わせ先 立山充博(神経機能素子研究部門)
要旨

Neuroligin はシナプス接着因子Neurexin に結合する分子として単離された1回膜貫通型タンパク質で、アセチルコリンエステラーゼ(AchE)様ドメインを含む細胞外領域と、カルボキシ末端にPDZ結合配列を有する細胞内領域からなる。ヒトでは5種類のアイソフォームが存在し(neuroligin-1, 2, 3, 4X, 4Y)、そのうちneuroligin-3 と-4XがX染色体上に、-4YがY染色体上に座乗している。 Neuroliginの機能はこれまで主にげっ歯類で研究されてきた。げっ歯類の neuroligin-1, 2, 3はヒトのものと相同性が高いが、neuroligin-4Xに類似するものは常染色体上にあり脳での発現は微量で、また-4Yに相当するものは見つかっていない。Neuroligin-1, 2, 3 は脳で強い発現を示し、Neuroligin-1は興奮性シナプス後終末、Neuroligin-2は抑制性シナプス後終末、Neuroligin-3は、興奮性と抑制性両方のシナプス後終末に局在し、これらのシナプスの形成・成熟を誘導することが知られている。

ポストゲノムプロジェクトの時代になって、ヒト疾患原因遺伝子のスクリーニングが活発化する中で、neuroligin-3 と-4X の変異がX伴性自閉症患者の中から発見された。その後さらに、Neuroligin に結合する分子であるNeurexinやShank- 3 の遺伝子異常も自閉症患者から見つかったことから、これらの分子の変異によって起こるシナプス異常が自閉症と関係しているのではないかと考えられるようになった。我々はこれを確かめる目的で、Neuroligin-3 のAchE様ドメイン内に局在する変異(R451C)を再現したノックインマウスを作成し、解析を行った。行動解析の結果、このマウスでは社会的相互作用の低下と空間学習記憶能力の亢進が認められ、これらは自閉症の症状と関連することから、neuroligin-3の R451C変異はこれを有する患者の中で自閉症の直接の原因となっていることが示唆された。このマウスのシナプス機能を調べたところ、大脳皮質では抑制性シナプス機能の亢進が認められるのに対し、海馬では興奮性シナプス機能の亢進が認められるという、脳の領域による表現系の違いが認められた。また、 Neuroligin-3の細胞内領域に局在するR704C変異を再現したマウスでは、海馬で興奮性シナプス機能の低下が認められるという、R451C変異と異なる結果が得られた。自閉症の原因はシナプス異常にあると言う説が有力になりつつあるが、このときのシナプス異常のパターンは一律なものではないことが示唆される。