一般に中枢神経の軸索終末では、活動電位の伝播に伴い1か所の放出部位当たり1個のシナプス小胞が開口放出される(単一性放出monovesicular release)。 一方、複数のシナプス小胞が複数の放出部位から同期的に、もしくは単一の放出部位から連続的に放出される、多重性放出ultivesicular release)の存在も指摘されている。しかし、小胞放出の単一性・多重性を決定する分子基盤は、現在までほとんど明らかにされていない。今回、ラット小脳顆粒細胞(上向性線維)‐分子層介在ニューロン(籠細胞・星状細胞)間グルタミン酸作動性シナプスにおいて、 (1)EPSCの減衰時定数(t)が、シナプスの反復活動に依存した多重性小胞放出に伴う、伝達物質のシナプス間拡散・蓄積作用によって制御されるという現象、ならびに (2)Gi/o共役型受容体が仲介するシナプス前抑制に、EPSC減衰時間(即ち、多重性放出)への影響によって明確に区別される多様性が存在することを見出したので紹介したい。シナプス後電流のキネティクスが、シナプス小胞放出過程や伝達物質の拡散・蓄積作用によって決定されるというメカニズムはこれまで報告がなく、現在その分子的基盤や生理的意義の解明を急いでいる。是非ご意見ご示唆を賜りたい。また、複数の発現機序によるシナプス前性制御機構が、脳の情報処理における多様性の形成に寄与している可能性についても考察したい。
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