ガガーリンによる人類初の宇宙飛行から半世紀、国際宇宙ステーションが実運用を開始し、2011年6月からは古川聡宇宙飛行士の長期滞在ミッションが予定されている。人類が宇宙に出ても生存できるかどうかすら分かっていなかった時代から、微小重力や宇宙放射線に長期間曝されることに対する諸々の問題解決へと宇宙医学研究の目的はシフトし、宇宙環境を活かしたライフサイエンス研究とともに新しい道を拓きつつある。 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は筋の萎縮と骨量の減少、循環機能や起立耐性の低下、閉鎖空間における環境衛生管理や精神心理支援、放射線被曝管理、そして軌道上遠隔医療をとくに重要な研究対象として掲げ、数々の実験に取り組んでいる。軌道上実験では、宇宙飛行士が研究者の代わりとなって実験操作を行い、さらにヒト対象研究の場合は自らが被験者の役割も果たすことになる。ミッション期間に研究に割ける時間の配分には限度があるとともに、倫理面の問題については極めて慎重な配慮が求められる。また、利用できる機器の制限、無重量環境での操作、サンプルの保管や輸送など技術的側面やコストの問題に加え、多くの国家が参画するプロジェクトでは様々な国際間の調整も必要となってくる。軌道上実験を実現するために乗り越えなければならないハードルは数多い。 宇宙医学研究が成果を挙げるためには、こうした特有の条件を理解した上で、綿密に研究計画を立案し、相応の準備をもって臨まなければならない。本セミナーではJAXA宇宙医学生物学研究室が現在実施している軌道上実験を中心に現場のディテールを伝え、より多くの科学者が宇宙環境利用の枠組みを共有し、人類の知的探究心を満たしていくための道を展望する。
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