日 時 | 2011年05月30日(月) 15:00 より 16:30 まで |
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講演者 | 栗生俊彦 |
講演者所属 | 徳島文理大学香川薬学部病態生理学講座 |
お問い合わせ先 | 生体恒常機能発達機構研究部門 鍋倉淳一 (内線: 7851) nabekura@nips.ac.jp |
要旨 |
中枢神経系の興奮性シナプスは、シナプス前部のvaricosityとシナプス後部のspineとの接触部位に形成され、発生および活動に依存して、その形態を変化することが知られている。一方、抑制性シナプスは、シナプス前部のvaricosityと樹状突起shaftとの接触部位にシナプスを形成する。樹状突起shaft部に形成された抑制性シナプス後部には、足場蛋白質であるgephyrinが集積しており、GABA受容体やglycine受容体の動きや数の調節に重要な役割を果たしている。Gephyrinは、樹状突起内で、秒・分単位でマイクロメーター以下の微小な動きを示し、その動きは活動依存的に制御されることが報告されている。 今回、私たちは、抑制性シナプス前部及び後部を同時に可視化し、時間・日にち単位での抑制性シナプスの形態変化について観察した。抑制性シナプスの動態を可視化するために、抑制性シナプス前部および後部を蛍光蛋白質を用いて標識した。 Vesicular GABA transporter(VGAT)- Venusトランスジェニック・マウスの海馬神経細胞を分散培養すると、Venus蛍光シグナルは抑制性神経細胞に特異的に発現しており、その軸索および varicosityにも蛍光が認められ、抑制性シナプス前部の形態を可視化することができた。一方、抑制性シナプス後部の足場蛋白質である gephyrinに蛍光蛋白質mCherryをつないだ遺伝子をアデノウイルスにより培養海馬ニューロンに導入発現させると、抑制性シナプス後部に局在したmCherry-gephyrin分子の集積が見られた。遺伝子改変マウスを用いた抑制性シナプス前部varicosityの標識とmCherry- gephyrinによる抑制性シナプス後部の標識を組み合わせることにより、抑制性シナプス前部および後部を同時に可視化することが可能となった。 コンフォーカル顕微鏡を用いた形態観察と電気生理学的測定から、培養日数に依存した抑制性シナプス密度の増加とそれと同期したmIPSCの頻度と振幅の増大が見られた。培養の各ステージでtime-lapse imagingを行ったところ、培養初期(9-11DIV)では、形成された抑制性シナプス前部・後部が顕著な形態変化していることが明らかになった。培養後期(16-25DIV)ではこれらの形態変化は安定化された。シナプス形態の安定化が急速に進む時期とシナプス密度が上昇する時期はよく一致しており、その時期(12-14DIV)に長時間のtime-lapse imagingを行ったところ、特徴的な形態変化(シナプスの融合、分裂、移動)が観察された。これらの結果は、抑制性シナプスが培養初期からシナプス形成が活発な時期にかけて、顕著な形態変化をしながら、融合・分裂・移動を繰り返して、その配置や密度を調節することを示唆している。 |