【上田教授】 「下垂体後葉ホルモンの視床下部内外での発現~その生理作用の謎への挑戦~」 下垂体後葉ホルモンであるバゾプレッシンとオキシトシンは視床下部室傍核および視索上核に局在する細胞体で産生され、下垂体後葉に投射した軸索終末から循環血液中に分泌される。血中のバゾプレッシンは腎臓に作用して抗利尿ホルモンとして働き、オキシトシンは分娩時の子宮筋の収縮や授乳時の射乳反射を引き起こす。バゾプレッシンは、視床下部内では上記の2つの核以外にも生体リズムの中枢として知られる視交叉上核でも産生されている。視床下部外においては、嗅脳、青斑核および後根神経節においても産生されている。遺伝子改変技術を用いて下垂体後葉ホルモンを蛍光標識したラットを用いて、我々がこれまでに明らかにした視床下部内外における下垂体後葉ホルモンの発現動態からその生理作用の謎に迫りたい。 【矢田教授】 「視床下部室傍核における局所神経分泌、ニューロン連携と摂食行動調節」 新規満腹ペプチドNesfatin-1(Nature 443:709,2006)は視床下部に広範に局在するが、食事摂取は室傍核Nesfatin-1ニューロンを特異的に活性化する。室傍核において、Nesfatin-1はオキシトシンと高頻度に共存する。Nesfatin-1は、脳室内投与により室傍核オキシトシンニューロンを活性化し、また単離したオキシトシンおよびNesfatin-1ニューロンを直接活性化する。室傍核スライスからのオキシトシン分泌は、外来Nesfatin-1添加により増加し、Nesfatin-1中和抗体により低下する。Nesfatin-1による摂食抑制はオキシトシンアンタゴニストにより阻害される(Maejima et al. Cell Metab. 10:355,2009)。従って、室傍核Nesfatin-1ニューロンは食事により活性化され、paracrine/autocrine作用によりオキシトシンニューロンを活性化し、オキシトシン放出により摂食を抑制する。
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