通常、随意運動の学習は、自身が計画・実行した動作と、実際に身体が行 った動作との間に生じる誤差を修正する過程で成立する。一方、実際に運動 を行なわない運動イメージによっても、運動学習は可能である。しかし、運 動イメージによって、なぜ運動学習が成立するのかは、未だほとんど解明さ れておらず、従来の研究では、実際運動との行動、脳内神経機序などの類似 性が強調されてきた。学習効果についても、実際運動との類似性に焦点が当 てられる反面、運動イメージによる学習効果は、実際の運動学習より低いと いうのが通説であった。 しかし近年、運動イメージと実際運動の脳内神経機序が相違することに注 目が集まっている。このことから、運動イメージの学習の効果も、単に運動 学習の縮小版ではない、異なる特異性が存在するのではないかと予測でき る。 本研究では、運動実行と運動イメージがどのような相違点を持つのかにと どまらず、運動イメージが、実際の運動や感覚のフィードバックと、どのよ うな共通点を持ちながら、特有の領域を持つのか、3者を比較することで、 運動イメージの神経機序を細かく検討した。さらに、運動イメージ特有の学 習効果とその関連領域を検討するため、実際運動による学習効果と比較する ことで、特異領域の同定を試みた。 最初に行ったのは、運動実行時の脳活動、運動感覚情報処理に関連する脳 活動、そして運動イメージ時の脳活動の比較である。機能的磁気共鳴画像法 (fMRI)を用いて、右手首の屈曲伸展運動の(1)実際運動、(2)運動錯覚によ る再現(感覚フィードバック)、(3)運動イメージを比較した。結果、運動 イメージ中の脳活動は実際運動と同様に、運動の指令にかかわる高次運動領 域を中心とした活動がみられた。しかし補足運動野や運動前野などの高次運 動領域はより,認知に関連することが示唆されている前方領域に特化してお り、運動感覚のフィードバックの賦活領域とも異なっていた。このことはつ まり、運動実行や実際のフィードバック処理領域とは異なる領域で運動イメ ージを生成している可能性を示唆している。 また、運動イメージは実際に四肢を動かさずに指令を行うという特異性に注 目し、四肢非特異の運動学習効果を検討するため、運動イメージによる両側 性転移の効果を検討した。両側性転移とは、ある学習した四肢の効果が他方 の四肢などにも促進する効果をいう。系列学習運動を利用し、左手で(1) 実際の運動練習、(2)運動イメージ訓練を比較し、各々の学習後、左手で の学習効果と右手への転移効果を比較した。すると、運動を実際に行った群 では左手(学習側)に特化した訓練効果が見られたのに反し、運動イメージ 群では学習側・非学習側に同等レベルの訓練効果が得られることが分かっ た。このことは、運動イメージ訓練が四肢に非依存な学習効果を持っている 可能性を示唆する。さらに、運動イメージ群では前実験同様に、運動実行よ り前方の高次運動領域に特化した賦活領域が観察された。これらの領域は四 肢非依存の運動との関連が示唆されていることからも、運動イメージの特異 性およびその特異的な効果が、四肢非依存性にある可能性を示唆する。
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