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セミナー詳細

2012年12月14日

知覚学習における注意と強化信号の役割

日 時 2012年12月14日(金) 14:00 より 15:00 まで
講演者 渡邊武郎先生
講演者所属 ブラウン大学 認知言語心理学部 神経科学部 視覚科学センター・教授
お問い合わせ先 小松英彦(感覚認知情報研究部門 内線7861)
要旨

生体は環境へ適応するために、脳内の情報処理過程を変化させる事により学習が 成立する。その際に、脳内の変化が弱すぎると 効果的に環境に適応ができない が(too stable)、 変化が強すぎると脳の情報処理の中核を破壊してしまう恐れ がある(too plastic)。これを安定性と可塑性とのジレンマとよぶが、脳はこれ ら両極端な結果を生むことなく、環境に効果的に適応している。脳でこのジレン マを どのように克服しているかは、神経科学における重要な研究課題となって いる。知覚経験によって、知覚的な課題のパーフォーマンスが長期間にわたり 向上するタイプの学習を特に知覚学習と呼ぶが、われわれのグループは脳がこの 安定性と可塑性とのジレンマをどのように達成しているかを調べるため に知覚 学習を使った研究を行って来た。我々は、報酬の効果を注意の効果から分離する ために、注意の制御が効きにくい閾値下の刺激の知覚学習を研究 して来た。そ の結果、知覚学習は、課題との関連性(relevancy)とは無関係に、提示された刺 激の特徴と報酬信号が適時的に相互作用するこ とによって成立する事を示す実 験結果を得た(Watanabe, Nanez & Sasaki, Nature, 2001; Watanabe et al, 2002, Nature Neuroscience; Seitz & Watanabe, 2003, Nature; Seitz, Kim & Watanabe, 2009, Neuron; Shibata et al, 2012, Science)。 他方、 刺激が課 題と無関連な場合、注意によってその信号が抑制されると考えられるが、刺激が 閾値下の場合は注意機構がその刺激を検出、抑制できないため、より強 い閾上 の無関連刺激よりも逆により強い信号になり、そのために閾値下の知覚学習が成 立する事がわかった (Tsushima, Sasaki & Watanabe, 2006, Science; Tsushima et al, 2009, Current Biol)。以上の結果から、 安定性と可塑性との ジレンマを克服するために、報酬による強化信号と注意信号は共に知覚学習を制 御するが、その役割は異なっている事が示唆された。すなわ ち、報酬による強 化信号は、刺激提示とのタイミングが合えば、 課題の関連性に関わらず提示さ れた刺激の信号を増大させるので、課題に関連する刺激の知覚学習だけでなく課 題に無関連な刺激の知覚学習をも導く。他方、注 意信号は、検出可能な限り、 課題に関連した刺激を増大し無関連な刺激を抑制するので、課題に関連する刺激 の学習だけを許していると言えよう。