日 時 | 2012年12月19日(水) 11:00 より 12:00 まで |
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講演者 | 横井 紀彦博士 |
講演者所属 | 生理学研究所・生体膜研究部門 日本学術振興会特別研究員 |
お問い合わせ先 | 深田 正紀(生体膜研究部門#5873) |
要旨 |
“てんかん”は罹患率1%程度の頻度の高い神経疾患であり、激しいけいれんや意識消失、 時には幻覚・幻聴などを伴う。てんかんは神経細胞および神経回路の異常な興奮によ り引き起こされると考えられているが、その病態、病因は不明な点も多い。LGI1は神 経分泌蛋白質であり、34もの家族性変異体がヒトでてんかんを引き起こす。また、 LGI1は痙攣や記憶障害を伴う辺縁系脳炎を引き起こす自己免疫抗体の主要な標的でも あり、LGI1はヒトの脳機能に重要な役割を果たすと考えられる。これまでに、我々 はLGI1ノックアウトマウスが生後3週以内にてんかん発作の重積により全て死亡するこ とを示し、LGI1が膜蛋白質ADAM22およびADAM23のリガンドとして機能し、AMPA受容体 機能を促進することを見出した。(Fukata et al. Science 2006; Fukata, Lovero, Iwanaga, Watanabe, Yokoi, et al., PNAS, 2010)。しかし、LGI1の生理機能と、 LGI1変異体による分子病態は未だ明らかではなかった。そこで我々は、ヒトで報告さ れたLGI1のミスセンス変異体に着目した。アミノ酸変異による蛋白質構造、および蛋 白質-蛋白質相互作用への影響が、LGI1の生理的な機能に関与すると考えられるためで ある。我々はLGI1の変異体を分泌不全型と分泌型に分類し、それぞれを発現する2種類 のLGI1変異マウスを作成し、生化学的、組織化学的にLGI1変異体の機能欠損を調査し た。その結果、野生型LGI1がシナプス間隙へ分泌され、ADAM22、ADAM23と結合するの に対し、分泌不全型は構造異常のために小胞体に留まり、最終的には分解されること、 分泌型はADAM22との結合が選択的に阻害されていることを見出した。以上の結果 はLGI1の変異によって引き起こされるてんかんが、構造異常による分泌不全、タンパ ク間相互作用不全を原因とするコンフォメーション病(conformational disease)であ ること、また、LGI1-ADAM22タンパク質複合体を基点とした脳の興奮メカニズムの重要 性を示すものであった。 |