本セミナーは日本語で行われます。
The lecture will be delivered in Japanese.
近年、脳損傷後に損傷を免れた神経細胞が損傷された神経細胞の役割を代行する脳の可塑性の存在が明らかにされ、この脳の可塑性を最大限に発揮させて、これまでにない機能回復を目指した新たなリハビリテーションの開発と治療成績の検証が進んでいる。
今回の講演では促通反復療法を中心に脳卒中による片麻痺の改善を目指す新たなリハビリテーションについて述べる。片麻痺への治療に多用されてきた従来の神経筋促通法(ボバース法、他)は長年の検討にも関わらず、通常の治療法に比べて大きな改善効果が認められないため、「脳卒中治療ガイドライン2009」では積極的な推奨はなく、「Lancet のガイドライン2011」では「ボバース法は推奨しない」とされている。これらの神経筋促通法は「片麻痺肢と躯幹の筋緊張の正常化や姿勢反射の異常の正常化が麻痺肢の随意性や巧緻性を回復するための前提である」との考え方に囚われ、片麻痺の原因となっている損傷された運動性下行路の再建・強化が不十分で麻痺の回復を促進できなかった。
運動を含めて全ての情報処理は機能分担する神経細胞や神経路が行っているが、この神経路の結合が増強するか、減弱するかは単純な原則に従っている。この結合強化はシナプス前細胞の興奮がシナプス後細胞に伝わることによって、シナプスの伝達効率の向上、シナプスの組織的結合強化の形で進行する。したがって、大脳から脊髄前角細胞への神経路を再建・強化して片麻痺の回復促進を図るためには、大脳ならびにその運動性下行路の興奮水準を調整して、患者が意図した運動を実現し、それを反復できる治療手法が必要である。
近い将来に実用化される神経系の再生医療が最大の効果を得るためには、運動だけでなく、感覚や連合野の情報処理を担う神経路に埋め込まれた神経細胞を組み込む必要があり、神経路レベルのリハビリテーション技術が不可欠になろう。
促通反復療法は患者の意図した運動(個々の指の屈伸や道具使用、共同運動の分離や歩行パターンなど)の実現と反復によって、目標の神経路の再建・強化を行い、麻痺の大きな改善を得ている。それらの治療効果は無作為対照試験や比較対照試験、クロスオバーデザインなど検証され、これまでの治療法より優れていることが証明されている。
現在、我々は促通反復療法との併用療法(振動刺激痙縮抑制法、持続的電気刺激法、経頭蓋磁気刺激法、ボツリヌス療法)の治療成績の検証と促通反復療法を応用した促通機能付きロボットの開発を進めているが、神経路の再建・強化のメカ二ズムの解明が進み、より効果的な治療の確立が進めば再生医療や超高齢者の医療・福祉に大きく貢献できよう。
<参考文献>
1. 川平和美: 片麻痺回復のための運動療法、第2版、医学書院、2010
2. Shimodozono M, et al: Benefits of a repetitive facilitative exercise program for the upper paretic extremity after subacute stroke: A randomized controlled trial. Neurorehabil Neural Repair. 2013; 27(4): 296-305.
3. Etoh S, et al: Effects of repetitive trascranial magnetic stimulation on repetitive facilitation exercises of the hemiplegic hand in chronic stroke patients. J Rehabil Med. 2013; 45(9): 843-847. doi: 10.2340/16501977-1175.
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