日 時 | 2016年02月08日(月) 9:00 より 10:00 まで |
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講演者 | 磯田 昌岐 先生 |
講演者所属 | 関西医科大学医学部生理学第二講座 |
場 所 | 生理学研究所(明大寺地区)1F大会議室 |
お問い合わせ先 | 小松英彦(感覚認知情報研究部門 内線7861) |
要旨 |
霊長類動物を用いて高次脳機能の統合的理解を進めるために、我々は(1)社会システム神経科学の確立、(2)システム神経生理学研究と認知ゲノミ クス研究の融合的推進、そして(3)精神・神経疾患モデルの作出とその病態機構の解明に取り組んできた。本セミナーでは各々の研究ストラテジーを 概説し、これまでに得られている成果を紹介する。社会システム神経科学研究は、本来的に社会的動物である霊長類の脳機能を、自他関係や社会的環境 の枠組みにおいて明らかにするアプローチである。本研究では社会的認知行動制御の重要側面を、適切に統御された実験系に再現することが重要にな る。我々は2頭のサルを同時に用いた認知行動タスクを考案し、自他の行動情報の識別や、他者の行動情報のモニタリングと利用において、内側前頭前 野ニューロンと中脳ドーパミンニューロンが異なる役割を果たすことを明らかにした。認知ゲノミクス研究は、こころの個性の基盤となる脳機能とゲノ ム情報との関係を明らかにするアプローチである。我々はこの手法とシステム神経生理学的手法とを融合させることにより、自閉症様の認知行動パター ンを呈したサル個体において、他者の行動情報を表現する内側前頭前野ニューロンが顕著に少ないことや、ヒトの精神疾患のリスク遺伝子に‘稀な変 異’があることを見出した。精神・神経疾患モデル研究では、神経発達症群(DSM-5)に分類されるトゥレット障害のマカクモデルを薬理学的操作 によって作出することに成功している。線条体の被殻背外側部へのビククリン注入によって運動チックが発症し、側坐核への注入によって発声チックが 発症することを明らかにし、両者の差異を特徴づける広域神経回路活動の異常をPETイメージングと電気生理学的手法により同定した。これら3つの研究を学際的連携の下で一体的に推進することにより、ヒトを含む霊長類がもつ高度な認知機能を支える神経回路基盤とゲノム基盤を明らかにできると 同時に、その破綻によって顕在化する精神・神経疾患の病態を神経科学的に解き明かすことができると期待している。 |