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セミナー詳細

2016年02月15日

有髄・脱髄軸索におけるミトコンドリアの振る舞いとその役割

日 時 2016年02月15日(月) 16:00 より 17:00 まで
講演者 大野 伸彦 先生
講演者所属 山梨大学大学院総合研究部 医学域 基礎医学系 解剖分子組織学教室
場 所 山手2号館2階 生理研セミナー室
お問い合わせ先 分子神経生理研究部門 池中一裕 (5245)
要旨

髄鞘は脊椎動物の神経系において軸索を被覆する多重の細胞膜からなる構造であり、速い跳躍伝導を可能にし、軸索の長期的な生存を助けている。髄鞘は跳躍伝導の際にNa+の流入をランビエ絞輪部に集中させることで、神経伝達に必要なエネルギーを低減させるといわれている。したがって髄鞘疾患において永続的な神経障害につながる軸索変性には、軸索のエネルギー代謝の破綻が深く関わると考えられてきた。実際、軸索の主なエネルギー産生の場であるミトコンドリアの分布や動態は、髄鞘の形成と喪失によって大きく変化する。有髄軸索のミトコンドリアの多くはNa+/K+-ATPaseが豊冨な絞輪間部に静止して点在し、その間を比較的小さなミトコンドリアが両方向性に輸送される。神経伝達に伴ってCa2+依存性に静止したミトコンドリアがランビエ絞輪部で増加するが、こうしたランビエ絞輪部に特異的なミトコンドリアの振る舞いは、遺伝的な髄鞘形成の障害によってみられなくなる。これらの多くのミトコンドリアは数時間以上の長期にわたって軸索の特定部位に安定して静止してみえるが、実際は輸送ミトコンドリアとの分裂・融合を介して常にターンオーバーを繰り返している。その半減期は数時間程度であり、ミトコンドリア輸送の低下に伴って遅延する。一方、脱髄に伴って、軸索の静止ミトコンドリアは増加する。この静止ミトコンドリアの増加はミトコンドリアと微小管の結合に依存しており、その障害はミトコンドリアの減少とNa+依存性の軸索変性を惹起する。本セミナーでは細胞やオルガネラの3次元的微細構造解析に有用なSerial block-face scanning electron microscopyの応用と進歩にも触れながら、有髄・脱髄軸索の機能や生存におけるミトコンドリア動態の役割について議論したい。

<参考文献>
Ohno N, et al. PNAS. (2014) 111:9953-8.
Ohno N, et al. J Neurosci. (2011) 31:7249-58.