自然界においてエサや配偶者、なわばりといった資源はその量が限られているため、個体間の競争が必然的に起こる。人間社会においても、学業やスポーツ、ビジネスなど他人と競争しなければならない場面は多くある。このような競争に勝つことは生存や社会的な地位を確保するうえで重要な意味を持つ。
我々は、競争場面に特有の脳活動を調べるため、サルに対戦型シューティングゲームを訓練し、ゲームで競い合っているときのニューロン活動を前頭連合野から記録した。競争条件ではコンピュータモニタの前に並んだ2頭のサルが互いにゲームで競い合った。ゲームではジョイスティックを操作することで弾を撃てるようになっており、先に相手の砲台に弾を当てると勝ちとなる。勝者には報酬(ジュース)が与えられ、敗者には何も与えられなかった。この競争条件とは別に、1頭のサルだけがゲームをプレイする非競争条件を設けた。非競争条件では、相手側から弾が撃ち返してこない状況でターゲットに弾を当てると50%の確率で報酬が与えられた。これら競争/非競争条件でサルがゲームをしているときに、前頭連合野から単一ニューロン活動の記録を行ったところ、①非競争条件に比べ競争条件で活動レベルが上昇するニューロン、②競争条件で報酬を得たとき(勝ったとき)に大きな活動を示すニューロン、③競争条件で報酬がなかった(負けた)ときに大きな活動を示すニューロンが多く存在することを見つけた。また、対戦相手の影響を調べるため、コンピュータが対戦相手である条件でニューロン活動を記録したところ、対戦相手がサルであるときのほうが活動が高くなる傾向が見られた。さらにニューロン活動に及ぼす「勝ち・負け」の影響と「報酬の有無」の影響を分離するため、「勝っても負けても報酬がもらえる」もしくは「勝っても負けても報酬がもらえない」といった平等報酬条件を導入した。その結果、平等報酬条件になると、弾の命中率が低下し、最初の弾を撃つまでの反応時間が長くなるなど、サルのモチベーションの低下が見られた。また、報酬期に活動するニューロンのなかに、「勝っても負けても報酬がもらえる」状況で報酬を得た(もしくは「勝っても負けても報酬がもらえない」状況で報酬がなかった)ときに比べ、自分が勝たないと報酬がもらえない状況で報酬を得たとき(もしくは報酬がなかったとき)に高い活動を示すニューロンが多く見つかった。これらの結果から、前頭連合野は競争場面と非競争場面を区別し、現在の状況と競争における自分のパフォーマンス(勝ち・負け)をコードしていると考えられる。
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