要旨 |
本セミナーでは、これまで主にマカクザルを用いておこなってきた神経解剖学的および電気生理学的研究のうち、以下の2つの研究成果を中心に紹介したい。
(1)マカクザルMTおよび4次視覚野(V4)への前頭葉からの多シナプス性入力様式の解析(Ninomiya T, Sawamura H, Inoue K, Takada M. J Neurosci 2012)霊長類の大脳における視覚情報処理システムは、それぞれ異なる視覚情報を処理する背側視覚路と腹側視覚路からなる、並列的かつ階層的な機能構造になっていることが知られている。それぞれの神経ネットワークにおける代表的な高次視覚野であるMTおよびV4への前頭葉からのtop-down入力様式を、狂犬病ウイルスによる逆行性越シナプス的神経トレーシング法を用いて解析した。その結果、MTとV4は46野腹側部から2次入力を受けていることが明らかになった。また、MTについては、補足眼野(SEF)からも2次入力を受けていることが分かった。さらに、2種類の蛍光色素を用いた逆行性二重標識実験をおこない、前頭前野からMTとV4に伝達される信号が、前頭眼野や外側頭頂間野の異なる神経細胞群によって中継されていることも見出した。
(2)周波数解析によるマカクザルSEFと1次視覚野(V1)における層間ネットワークの比較(Ninomiya T, Dougherty K, Godlove DC, Schall JD. J Neurophysiol 2015)V1とその周辺の視覚野の入出力関係に関する知見(例えば、4層が入力層で2/3層が出力層である)から、大脳皮質の領野内層間ネットワークには鋳型のような共通のパターンが存在するという仮説(Canonical cortical microcircuit hypothesis、CCM仮説)が提唱されている。しかし、V1と異なり、顆粒細胞からなる4層が極めて乏しいSEFのような領野も存在しており、CCM仮説は長年議論の対象となっている。CCM仮説を検証するため、マカクザルのSEFおよびV1において多点電極による局所電場電位の全層同時記録をおこない、Cross-frequency coupling解析と呼ばれる周波数解析を用いて層間ネットワークを比較した。その結果、V1ではアルファ帯域(7-14Hz)とガンマ帯域(30-200Hz)の相互作用が5層内および5層と2/3層の間で顕著にみとめられたのに対して、SEFでは3層内でのみV1と同じ周波数帯での相互作用がみとめられた。このことは、V1とSEFにおける層間ネットワークが異なることを反映していると考えられ、CCM仮説に反駁する結果が得られた。
また、これまでおこなってきた神経疾患モデルにおける電気生理学的研究や、皮質脊髄路の解剖学的研究に関しても、時間の許す限り紹介したい。
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