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研究活動

セミナー詳細

2017年01月05日

コミュニケーション場面における自他を繋ぐ神経基盤:二者同時記録fMRIを用いた研究

日 時 2017年01月05日(木) 13:30 より 14:30 まで
講演者 小池耕彦特任助教
講演者所属 生理学研究所心理生理学研究部門
場 所 生理学研究所(明大寺地区)1F大会議室
お問い合わせ先 定藤規弘(心理生理学 内線7841)
要旨

  ヒトはコミュニケーションにより,五感を通して他者と情報を相互伝達,目的を共有したある種のシステムとして振る舞う.情報を相互伝達し,結果として自他を繋ぐメカニズムは,心の理論や共感といった高次社会能力の基盤と考えられているが,その神経基盤は明らかでない.自他が一つのシステムへと統合される過程は,異なる情報を保持する脳領域が情報を相互伝達し,一つのシステムとして機能するのと類似しているように思われる.我々は脳内ネットワークの研究で用いられている研究手法を拡張し,異なる情報を持つ二者がコミュニケーション行動を介して情報を共有して繋がるメカニズム,およびその神経基盤を研究した. 研究には主に,二者同時記録fMRIを利用した.このシステムは2台のMRI内にいる被験者達が,言語/視覚コミュニケーションをしている際の脳活動を,二者から同時に記録できる.この装置を利用した研究で,視覚を通した共同作業である共同注意をおこなう際に,自分と他者の作業への関わり方に応じて,右島皮質-下前頭回の異なる下位領域が賦活されることが示された.また共同注意を特定のパートナーとおこなった経験は,二者が相互にみつめあう際の,右島皮質-下前頭回における二者間での脳活動相関の上昇として痕跡を残すことも示した.これらの結果は,二者で情報を相互伝達する際に,自分由来の信号と他者由来の情報を統合するのに,右島皮質-下前頭回が大きな役割を果たす可能性を示す.これら注意の共有にともなう脳活動の変調が,真に二者間での情報の相互伝達に拠るのか,それとも「情報を相互伝達している」という主観に拠るかを調べたところ,主観に関わらず,リアルタイムでみつめあい情報の相互伝達が起こっている場合にのみ小脳-前部帯状回の活動が上昇し,その活動は右島皮質へと入力されていた.これら一連の研究は,コミュニケーション場面において情報の相互伝達を介して自他を繋ぐ際に,右島皮質が重要な役割を果たしている可能性を示唆する.さらに,(1)二者が繋がるメカニズムを高時間解像度で解明するための二者同時記録脳波-fMRI研究,(2)実社会の最小構成である三者のコミュニケーションを解明する手法,さらに(3)島皮質の下位領域が自他統合に果たす役割の詳細を解明するための7T-fMRI研究など,今後の展開についても紹介したい.