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セミナー詳細

2017年05月19日

マカクザル視床下核の化学遺伝学的抑制による運動異常とその神経機構

日 時 2017年05月19日(金) 12:30 より 13:00 まで
講演者 長谷川拓 先生
講演者所属 生体システム研究部門
場 所 山手 3号館2階共通セミナー室
お問い合わせ先 小林憲太(生理研・ウイルスベクター開発室 内線:7827)
要旨

  大脳基底核は直接路、間接路、ハイパー直接路を介して運動の実行に関わるが、それらの経路がどのように協調しているかは明らかではない。古典的な大脳基底核のモデルでは、基底核の出力核である淡蒼球内節が、直接路による抑制と間接路による興奮を受け、そのバランスによって運動を制御するとされる。間接路を担う視床下核は、損傷を受けるとバリズムと呼ばれる不随意運動を引き起こし、また、高頻度の電気刺激はパーキンソン病の症状を改善することが知られている。このように視床下核は運動制御に強く関わっているものの、その神経メカニズムは明らかではない。我々は化学遺伝学的手法、DREADD (Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drugs) によってマカクザルの視床下核を可逆的に抑制し、行動学的・電気生理学的な解析を行った。
 アデノ随伴ウイルスベクターによって抑制型のDREADD受容体M4Diを視床下核へ発現させ、clozapine-N oxide (CNO) を全身投与すると、反対側の上肢に不随意運動が観測された。到達運動課題中に視床下核を抑制すると、不随意運動は主に運動遂行中に計測され、運動の開始は影響を受けないことが分かった。 到達運動課題中の淡蒼球内節から単一神経細胞記録を行ったところ、視床下核の抑制によって運動に関連した発火頻度の上昇が減弱し、減少は増強される傾向があった。しかしながら、古典的なモデルに反し、平均発火頻度には変化が見られなかった。さらに、多くの淡蒼球内節の神経細胞において、神経発火の試行間の変動量が上昇した。
  以上の結果は、視床下核は運動の特定のタイミングで淡蒼球内節へ興奮性の影響を与えることで、進行中の運動遂行を調節していることを示している。視床下核が抑制されることによって基底核の出力が不安定になり、運動異常を引き起こすと考えられる。