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セミナー詳細

2017年10月17日

随意運動制御の神経回路解析から社会性を形成する神経回路解析へ

日 時 2017年10月17日(火) 11:00 より 12:00 まで
講演者 戸松 彩花 先生
講演者所属 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 神 経研究所 モデル動物開発研究部
場 所 生理学研究所(明大寺地区)1F大会議室
お問い合わせ先 生体恒常性発達研究部門 鍋倉淳一
要旨

 運動制御の効率化には感覚情報の利用が欠かせない。私はこれをいくつかの手法で確認してきた。例えばヒトが両手をリズミカルに動かす時、左右対称は簡単だが、ずれた動きは難しい(ex, 右手で三角、左手で四角など)が、自己の運動の捉え方(複数ある運動特徴のうち、いずれに注意するか)を変えると、その捉え方の違いが運動の安定性を変化させること(Tomatsu & Ohtsuki 2005)を報告し、運動の捉え方、すなわち感覚情報の利用の仕方の違いは複数の脳部位の活動の違いに反映されることをfMRI実験で見出した。次に研究対象を動物に移し、サルの小脳半球部V-VI葉にある3種類の神経細胞(帯状線維、ゴルジ細胞、プルキンエ細胞)を対象に、手首の随意運動中の活動記録を行った.その結果、随意運動中の小脳が,大脳から運動指令のコピーを得ており、小脳内を情報伝達する中で、運動の結果生じる体性感覚を予測している可能性を報告した (Tomatsu et al. 2016)。さらに運動中の体性感覚情報の処理機構に焦点を絞り、随意運動中のサルの脊髄一次介在ニューロンの活動を解析する(Confais et al. 2017, Takei et al. 2017)とともに、ラットでの予備実験を経て、現在進行中のサルの慢性記録では、随意運動時の筋感覚入力が、脊髄において皮膚感覚とは異なる規則でゲーティングを受けていることを示すデータを蓄積中である。
 感覚情報は,他者との関係性にも影響する。両手の動きと同様、2者間においても左右対称の運動が最も簡単で、横並びの2人が互いに相手の動きを観察しながら同じ体部位をリズミカルに動かすと鏡像関係になりやすく、意図的にずれを維持することが困難である (Schmidt et al 1990)。つまり我々の脳神経系には、他者の動きと自己の動きを同期させやすいメカニズムが存在し、集団行動を行う上で役立っていると考えられる。この機能の喪失は、自閉症などの社会性に困難のある症状を説明しうる要因の一つかもしれない。そこで私は、他者との同期現象を手掛かりとして、社会性を形成する神経回路に迫っていきたいと考えている。 先行研究より、右島皮質と右線条体が、社会的なタイミング(他者に合わせる)機能に重要とのヒトfMRIの報告 (Schirmer et al. 2016)がある。私は、2頭のサルに、相手と自己の手の動きの同期具合を調整させる課題を訓練し、このときの島皮質および線条体の神経活動を記録して、神経活動と2者の運動の同期性との関連を、サルとメトロノーム音との同期時と比較することで、社会性形成に特有の現象が検証できると考えている。さらに該当部位の不活性化で起こる行動変化から、その機能を確認することができる。そして同様の実験環境において、ミラーニューロンの脳領域も含めた多領域同時記録を行い、領域間の関係性を検討して、社会性を形成するメカニズムを包括的に理解したい。これらのサルの実験と並行してヒトの fMRI実験を適宜行い、サルの慢性実験を効率的に進める所存である。